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(135)200 聖、許しませんわ 第三話「残酷なまーちゃんのテーゼ」

♪お前がやれぬことならば、俺がこの手でやってやる

譜久村聖が率いるワイルド7は陽気に肩を組み、駅前の通りを練り歩いている
セクシーな服を身に着けたお嬢さんたちは街の皆の目を引きまくっている

(♪おかしい、何かが間違っている)
(いや、これじゃ変態野郎が出てこれないでしょう)  

大人数での行動が変態野郎の犠牲になった衣梨奈の二の舞を踏むまいという配慮だということは理解できなくもない
しかしこの賑やかさでは犯人をおびき出せない気がする
あるいはここに飯窪春菜か工藤遥がいれば…
彼女たちとの会話を通して、聖に進言することもできる
しかし今彼女たちはいない
リゾナンターとしてほぼ同じキャリアを踏んでいる佐藤優樹はそういう役割は不向きだ
ならば、小田さくらは…

(あいつ、この状況を分かった上で楽しんでやがる)

そもそも一番現実的なプランは、年齢的に一番上な春菜を囮役にした上で他の面々は隠密行動を取ることだろう
しかしワイルド7から洩れた春菜の凹みようを見るとそんなことは言えない
はるなんは胸圧が足りないから、せめて囮役でもやってよねなんてことはとても言えない

(これはある意味はるなんの敵討ちでもある。だから私がしっかりしなくちゃ)

亜佑美はイリュージョナリービーストを召還することにした
今は亡き兄が闇を打ち払う為に亜佑美に託した三体の魔獣たち。
攻撃力ならリオン、防衛力ならバルクだが、この場合求められるのは変態野郎を追い詰める隠密機動性

(キミに決めた。スカークロウ、カムオン!!)

スケアクロウではないスカークロウと発音するのがなんかカッコいいという亜佑美なりの美学だった
渦巻いた空気の中で無数の麦わらが逆巻いている
麦わらは何かの核を覆うように一つの形を形成していく
それは亜佑美を遥かに見下ろす背の高い案山子
声なき狙撃手、スカークロウ

「え、あんたもまさか」

どこで見繕ってきたのかワイルド7同様、革ジャンを羽織っていた
まあがんばれ

◇     ◇     ◇

「いましたわ」

裏通りを抜けたあたり、少し開けた場所
ワンコインの駐車場や飲食店の裏口が立ち並ぶあたりに防犯カメラの映像で見覚えのあるコートを着た男がいた
帽子にサングラス、マスクまで着けて顔を完全防備したその男
ワイルド7に気がついても慌てたそぶりも見せない

駐車場の金網を背にした変態野郎を半円状に包囲したワイルド7とスカークロウ
男は落ち着いた様子でコートのボタンを外し…

「今ですわ」

機先を制するべく、臍下丹田に溜めた息を革ジャンを半脱ぎにするタイミングで放出するワイルド7とスカークロウ
7人と1体から放出された気は変態野郎をノックアウトすることもなく、男はボタンを外したコートの前をゆっくりと開いていく
(えっこんなゆっくりじゃ気の放出とかできないんじゃ)

【人体標本】
それが男の能力だった
発動させることにより筋肉の光の透過率が上がり、内部が透けた状態はまさに映画の「透明人間」そのままであった
それも白黒フィルム時代の安っぽい特撮ではなく、最新鋭のSFX技術で撮影された「インビジブル」状態
学校の理科室などに設置されている標本模型がリアルな形でそこに存在していた
作り物の模型とは違い、筋肉は生々しく震え、血管を通る血液の色は生々しく、所々から見える内臓は不規則に動いている
街灯の光も相まって、不気味さを増したその姿にワイルド7も次々に意識を刈り取られていく

「こうなったら、スカークロウ、アタックモード!!」

威力は小さいがスカークロウを男に体当たりさせ、危機を脱しようとした亜佑美だったが、彼女の目に映ったのは絶望だった

「お前もかよ」

そこには気を失い口と思わしき場所から泡を吹いて倒れているスカークロウの姿があった
戦闘力を失ってその体を構成している麦わらがボロボロと崩れていく
やがて風に吹かれてスカークロウであった麦わらは飛散して、そこには何も存在しなくなった
そして亜佑美の意識も

◇     ◇     ◇

男は落胆していた
勇ましい歌を歌いながら美女美少女が行進してきた時は、どんな攻防が繰り広げられるのか結構期待していたのだが、それはあっさり裏切られてしまった
もっといろんな段階、内臓をよりクリアに移したり骨格のみの姿で踊ってみたりして脅かしてみたかったのだが
仕方なくその場を立ち去ろうとした時だった

「うわぁスゴイね、おじさんの身体」

一人だけ平然とした様子の少女が居た
大人びているようでもあり、あどけなさも残しているその少女は恐れも見せず男に近づいてきた

「これ、全部本物だよね」
「ねえもっと心臓とかはっきり見えないの」
「血管だけ見せて、見せて」

まるで天使のようなおねだりを見せるその少女に男は本能的に恐れを感じた
こいつはヤバいと思った瞬間、男の全身を何かが通過した
な、なんだ今のは


超音波の発進、振動

「ねえねえ今、内臓がぷるっとしたよ。おさかなさんみたい。 おじさんまーちゃんのおさかなさんになってよ。ねえねえもっとやってもいいでしょ」

男は理解した
この少女には何を言っても多分通じない
この少女はまさしく天使なのだと
恐れも知らず、無邪気な天使
しかし天使とは時に残酷なものだ
人間の苦しみを理解することもなく無邪気に運命の糸で遊ぶ天使が今、目の前にいる
このままでは自分は魚のように捌かれる

「た、助けてくれぇぇぇぇ」

それが男の残した最後の言葉だった
度を越した超音波の発振を受けた男の肉体にどんな影響が及ぼされるのかはまださだかではない

佐藤優樹をのぞくワイルド7は、気を取り戻した衣梨奈と交代で病院に収容された
聖たちが戻ってくるまでリゾナントの切り盛りはどんよりモードのトリプルAと衣梨奈で切り盛りされた
優樹はというとあいかわらずみんなを振り回していた
まーちゃんは天使

「残酷なまーちゃんのテーゼ」終わり

次回「ゴールドフィンガー」 


投稿日時:2016/11/18(金) 16:15:25.24



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