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(141)241 『先輩の意地』-over the limit-1

それが最善の一手だったかどうかなんてのは後になってからしか分からない。
もしもその時が訪れたら。その時、私は。皆と一緒に笑って居られるだろうか。



憧れた先輩達に並びたい、この人の力になりたいと思って足?いた時期も過ぎ。
やっと追いついたと思った時には、既に追えない場所へと旅立っていた。
一人、二人と先輩がここを離れ、もう自分の前に先輩は居なくなった。
次は自分達が皆に何を残してやれるのか。そもそも残してやれる何かが自分にはあるのか。
自問自答を繰り返しながらその何かを見つける為、衣梨奈はまだ足?いていた。
その、はずだった。

これは、衣梨奈の夢なのだろうか。
いや、確かに今迄小田ちゃんのサポートで精神制御の特訓をしていた。
一瞬立ち眩みがした、と思って軽く頭を振ったら目の前に新垣さんが立っていた。

「生田」
「えっ」
――こんなに華奢な人だったろうか。でも確かに記憶通りの新垣さんの顔と声。
身長も今では衣梨奈の方が随分と高くなってしまった事に少しの寂しさが溢れ出した。


さっきまでいたはずの小田ちゃんは一体どこへ?
新垣さんが何故、今ここに居るのか?
あんなに連絡をしても会いに来てくれる事は無かったのに?
そこに居るのは本物の新垣さん?
色んな疑問が衣梨奈の口から出る前に、その視線に射抜かれた。

息が止まるかと思った。
笑ってるのにこんなに力強くて悲しい目をした新垣さんを見るのは、2度目だ。

「久し振りだね。……試験をしにきたんだ。今度は生田、あんたの番だよ」

「試験、ですか?」
底冷えした月が輝く夜、トレーニングルームに衣梨奈の素っ頓狂な声が響いた。
「そ、試験。って言っても学校のお勉強じゃないけどね」
勉強私も苦手だし、とその顔はあの日のままどこか眩しそうに笑う。

「でも、試験をするのは生田じゃないんだ。生田に試験官をやって貰いたいと思ってね」

「衣梨が試験官?一体何をするんです?」

「生田の精神崩壊の力を他人の精神世界の中で使って貰う。鞘師を元に戻した時のように、ね。
さゆの、いや、まあ正確にはさえみさんの施した物質崩壊なんだけど。
精神世界から無理矢理元に引き戻すと言うか。荒療治するの。
失敗したら……生田の命と引き換えになるかもしれない」
大丈夫、その時は私も一緒だから。矢継ぎ早にそう付け加えられた。
自信に満ちた顔をして伝える内容じゃないのに、そんな顔をされたらノーとは言えない。

「それって、まさか。真莉愛の事ですか?」
道重さんと光井さんが真莉愛を喫茶リゾナントに連れて来た時、聖と衣梨奈、はるなんにだけ教えてくれた事。

真莉愛のとある力をさえみさんが無理矢理封印した事、
いつか真莉愛自身にも力の使い方が分かる日が来るという事。
どういうキッカケで?とかいつ?だとか、そういうのは全然見えてない。
ただ不思議な力を使っている少し大人びていて、悲しそうな真莉愛が見えてる。そう光井さんが言っていた。


今日がその日、なんだろうか。
真莉愛も夜が明ければ。日付が変われば16歳になる。


「……衣梨も新垣さんも、もしかしてその、真莉愛も、失敗したら、死ぬって事ですか?」
「勿論。心の死は身体の死と同じ事。もう分かってるはずでしょう?あんたが一番私の事を見て来たんだから」
そう言って笑う新垣さんは、やっぱりどこか悲しそうだった。 


投稿日時:2017/02/15(水) 00:06:35.59 



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