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(147)42 「通りすがりのheroとピンク色の犯行予告」

「小田さん、全部忘れてしまったってことは、あの事も忘れてしまったんです?」
「……」
「ホンマは小田さん、譜久村さんを憎んでたんですよね?」
「……」
「そんな不機嫌そうな顔しないでくださいよぉ」
「物語が佳境なのにまだこのメタ保全やるんだあと思って」
「シリアスしか書けないからこそ、挑戦しているんです!」 

「皆さん失笑だけどね」
「書き続けることに意味があるんです!」
「たとえ失笑されても?」
「そうですよ!STRONG HEART yes!」
「……」
「引かないでください」
「そのメンタルの強さには拍手を送るよ」

「小田さんのほうがメンタル強いじゃないですか」
「メンタル強い人は、記憶を上書きされないよ」
「違いますよ!あれは脳を弄っているからメンタル関係ないです!小田さんは悪くないです!」
「……キミは優しいね」
「そんなことないですよ」
「でも」


「その優しさが、命取りだよ?」

瞬間、私の膝が折れた。
全身から力が抜け、無様に地面に伏す。
何が起きたのか、理解できない。

「ごめんね……なの」

彼女の笑顔と、何処か鈍い色の空がぐるぐると回る。
閉じていく世界を強引に開こうとするも、呼吸がままならない。

意識が遠くなっていく中、夜が静かに、始まっていく。

………

「私の後輩に触らないでくれます?」
「到着が早すぎなの。記憶の上書きが効かなかったの?」
「それはあなたの能力ではないですし話がややこしくなります。とりあえずその子を返してください」
「返してほしけりゃ自分で取り返せなの」
「……」

「あ!ズルい!“時間編輯(タイムエディティング)”使ったでしょ!」
「いい加減にしてくださいよ。この前から野中のこと狙い過ぎです」
「だって可愛いんだもん。可愛い子はみーんなさゆみのものなのに」
「違いますよ?」
「違うの?」
「違いますね」
「不服なの。でも今日は諦めてやるの。また来るの」

「もう来なくて良いです」
「今度は横山ちゃんを狙うの」
「犯行予告しないでください」

そして彼女は姿を消した。
なんだこの茶番はと思いつつ、肩に抱いた後輩を見る。

彼女のやることは無茶苦茶だが、ひとつだけ、納得できることがあった。

 
―――「その優しさが、命取りだよ?」


そう、確かにその通りだ。
野中美希は、優しすぎる。それは、戦場においても同じことだ。
敵に情けをかけるとか、そんなことはしない。だけど、彼女は最後の一歩の踏み込みが、甘い。

いつかその優しさは、自らの首を絞めることになる。

それでも彼女は、笑うだろう。


―――「通りすがりのheroです」


優しくないヒーローなど、きっと彼女は、目指していないのだから。


投稿日時:2017/04/22(土) 23:28:40.94



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