(122)268 『Chelsy』 1

右手で握った銃から伝わるのは無機質な重みのみ。いや、握るなんて意識すらしていないかもしれない 
何百、何千回と繰り返した一連の動作にムダはなく、カン、カン、カン、カン、カンと金属音が響く 
火薬の臭いは好きになれない、そう思いながら数十メートル先の的は全て正中を射抜いていた 

「ブラボー!」 
パチパチと乾いた拍手がしたので振り向くと、壁に寄りかかりながら私のことをまた見ているあいつの姿 
「百発百中じゃあないか!それもド真ん中だよ!もっと誇らしげにしなよ!」 
決して悪いヤツではないことも知っているし、腕も立つことは誰よりも私が保証する。ただ・・・ 
「ここ、練習場なんだから静かにしてよ。私以外も使用中なのよ」 
「Oh! それは申し訳なかったネ。でも、銃器の扱い、さすがだよ。一つのミスもなかったじゃないか」 
すこしうるさい。 

「私だって失敗くらいするわよ」 
「君らしくないね」 
そういって銃口を彼にむけた 
「訓練中に『偶然』銃口を向け、『偶然』実弾が入っていて、『偶然』額を打ち抜く、そんなことあるかもしれないわ」 
「おいおいおい、ジョークがきついよ」 
もちろん冗談だ。すぐに銃を下ろす 
「君に撃たれるなら、それはそれで本望かもしれないが、まだまだ人生でやり残したことがあるから死ねないよ」 

「それで何の用?」 
汗ばんだ髪をタオルで乾かしながら、彼に問う 
「班長が呼んでた。報告書のことじゃないかな?説教される覚えなんてないんだろ?」 
もちろん、といっては言い過ぎかもしれないが、思い当たる節はない
 
「わかったわ、すぐに向かうわ。ありがとうジョニー」 
「終わったら、少し時間をくれないか?この前のデータについて提案がある」 
少し考える。宿題はそんなに多くない、時間を割けるだろう 

「ええ、いいわ。私からも一つ、二つお願いがあるの」 
「Oh! それはまた珍しいね。でも、まずは班長のもとへ急いだ方がいいよ。
 班長が君の分のデザートまで食べてしまうから」 

「その冗談は面白くないわよ、ジョニー」 
「冗談じゃないよ、本当のことさ。さあさあ、早く行った方がいいよ、チェルシー」


更新日時:2016/06/03(金) 00:30:28






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