(125)77 『ズッキの決意(仮)タイトル募集中。。。~名(迷?)探偵は誰だ!?~』5




ダークネスのリーダーと会い、父親とも再会を果たした鈴木。
しかししばらくはこれといった要求はされなかった。

1週間に1度のペースで授業中にいきなり睡魔に襲われ研究所に飛ばされる。
そして父親と5分10分の対面。
相変わらず父親は少し話しかけると机や椅子を鈴木に向かってぶつけてくる。
ぶつけられたら強制終了。

Dr.マルシェから一言二言話されている最中に睡魔が来て学校に戻る。
3か月もすると涙は出なくなったし、
週1の突然の呼び出しが楽しみになってしまっている鈴木がいた。

精神干渉されている様子はないし、リゾナントのことを聞かれることもない。
鈴木はただ父親の動向に目を配り、
かすかな変化を父親が自分を認めようとしてくれている証として幸せを覚えていた。 



「香音ちゃん、最近元気だね」
そう言ったのは同時期に入ったメンバーでは最年長になる譜久村。
学校が終わり、リゾナントには譜久村と鈴木が留守番をしていた。
他の面々は地下で訓練したり、どこか遊びに行ってたり・・・個々の日常を過ごしていた。

「そうかな?なんか私変わった?」
鈴木は少し驚きながらも聞き返した。
特にこれといったことはしていなくても、リゾナントにとってダークネスは敵。
鈴木が何と言おうがダークネスと繋がってしまった今、みんなにばれたら鈴木も敵とみなされ戦うことになる。
それは避けたい。

「うん。なんか・・・明るくなった。
最初も明るかったけどちょっと前まではなんか、悩んでるのかな~って感じで。。
だから聖どうしたらいいのかなって思ってたけど――みんな考えてたみたいだけど、
でも香音ちゃんが元気になってよかった。
誰かに相談したの?」
譜久村はコーヒーを二杯淹れながら話し続ける。
喫茶リゾナントで留守番をする利点は店にあるものならいくらでも飲んでいいし食べてもいいことだ。
留守番とはいえ客はめったに来ないし、だいたい2人以上でするから話をするにはいい機会だ。

「・・・・うん。ちょっとあってね。でも先輩と話したから」
鈴木は何か返答しなければと焦り、その場限りの言葉を吐いた。
『先輩』と言えば譜久村は田中や道重、
あるいはたまに顔を見せる歴代リゾナンターの人たちのことだと思うだろう。
けれど、鈴木は中澤を『先輩』と呼んだ。
中澤の言ったことが正しければ、あの人は先輩になる。

いいんだよね。大丈夫だよね。先輩であってるよね。

鈴木は心の中で何度も確認した―――。


※  


「今日はちょっとお話があるんだ」
父親との再会が終わって改まって言うDr.マルシェ。
そしてついてくるように促し、先を歩く。
連れてこられた部屋は会議室のような場所だった。

「これ見てもらえるかな」
そう言うとDr.マルシェは手元で携帯端末を操作する。
白い壁面にプロジェクターの映像が映る。
それと同時に照明も落とされた。

壁面に移っていたのは田中れいな。
採石場のような場所で十数人の男たちと戦っている。
身体能力に優れている田中に男たちはなす術もなく倒されていく。

「昨日、17時くらいかな。
いきさつとかは割愛するけれど、どうして彼女は一人なんだろう?」
Dr.マルシェは映像を止めると鈴木に聞いた。

昨日は16時頃に帰宅してすぐにリゾナントへ行った。
そして道重や飯窪と話しながら時間を過ごした。
鈴木は考えた。
しかしそこに田中がいたのかどうか、そして他に誰がいたのかどうか思い出せなかった。

「わかりません。私たちはなにも聞いていません」
鈴木は素直に答えた。
「私『たち』ね。少なくとも君は本当に知らないんだね」
Dr.マルシェは念押しする。
鈴木は少々むっとしながらも首を振る。

「いったいこれはなんなんですか」
鈴木は抗議するように問いかける。

なぜ田中は戦闘をしているのか。
そして、この映像を見せて何がしたいのか。

「君に知らされていないということは、君は知らなくてもいいことだよ。
そして私も君に教える気はさらさらない。
忘れてるようだけどこちらはすでに『Give』しているんだ。
『Take』がない限り、それ以上のことは望まないほうがいい」
Dr.マルシェは携帯端末に目を落としたまま答える。
もう鈴木には全く興味がないようだ。 



しかし、鈴木には聞きたいことがある。

「いったい私に何をしてほしいんですか」

鈴木は多少なりとも考えていた。
ダークネスが鈴木に求めているのは自身に出来ることか否か。
出来ないこと、し難いことの時に自分はどうすればいいのか。

Dr.マルシェはおかしいことでも聞いたように顔をふっとあげて、
嫌らしい笑みを浮かべる。
「なにもしなくていいよ、今はまだ」
「今はまだ何もしなくていいよ。いずれ何かはしてもらうよ。
心配しなくていいよ。だからその前に―――の心配―――いい・・・」
Dr.マルシェの話は途中で聞きがたくなってしまた。
また鈴木に睡魔がやってきたのだ。
懸命に睡魔を振り払おうとしても、やはり抗えきれなかった。




鈴木はマンションの一室で考えていた。
「今はまだ」
「いずれ何かは」

そして一番心に引っかかるのはかろうじて聞こえた
「だからその前に―――の心配―――いい・・・」
の言葉。

この言葉の前にDr.マルシェは「心配しなくていい」と言ったはずだ。
それは鈴木がしている自分自身への心配のことだろう。
普通に解釈すれば「その前にメンバーの心配をした方がいい」となる。
けれど中澤は努力すると言ってくれた。
あれから一度も会ってないけれど、あの時の中澤の言葉に嘘はないと鈴木は信じている。
それでもネガティブな妄想が頭から離れない。
鈴木はただ自分の心が、想いが共鳴しないように必死にこらえるしか出来なかった。



「どーする?」
能天気に声を発したのは生田だ。
リビングで3人の少女たちは鈴木の部屋を伺う。
鈴木が共鳴しないようにしているため、自分たちの心の声も今の鈴木には届かない。

「どうしようもないじゃろ。香音ちゃん自身が拒否しとるんじゃ。
うちらには何も出来ん」
リラックスした鞘師が外では抑えている方言もそのまま答える。
「でもなにか出来ないのかな。
仲間が苦しんでて、共鳴することさえ拒否するなんて・・。
やっぱり聖はほっとけないよ」
譜久村が鞘師と生田にすがるような目を向ける。

「そやけどどうすればいいと?
聖が触ってみて香音ちゃんの悩み見ればいいんかな」

「いけんじゃろ」
「だめでしょ」
二人の声が綺麗に重なる。

「わかっとうと。言ってみただけやし」
生田はそう言って少し膨れた。

沈黙。
それぞれにどうすればいいのか考えてみるが妙案は出ない。
生田は少し考えるのに飽きているようで携帯を弄び始めた。


※  

「前にも香音ちゃんがこんなんになった時があったじゃろ。 

あん時はしばらくしたらいつの間にか元気になってた。
じゃから今回もそうなるんじゃない?」
鞘師が譜久村に話しかける。
「あぁ。あの時――。
でも聖この前聞いたんだけど香音ちゃん、先輩に相談したから良くなったって。
だから香音ちゃんだけで解決したわけじゃないってゆーか」

「誰に相談したって?」
鞘師が聞き返す。
「先輩」
「どの先輩に相談したか聞かんかった?」
鞘師はなおも問いかける。
ここでようやく譜久村は鞘師の意図を察し、残念そうに首を振る。

「なになに、どうしたと?」
またもや能天気な声で会話に入ってきたのは生田だ。

「香音ちゃんは先輩の誰かに相談したんじゃ。
今香音ちゃんが何で悩んどるんかはわからんけど、
前にふさぎ込んでたことと何か関係があるかもしれんのじゃ」
鞘師は生田に説明する。

「もし関係がなくても前に相談したからきっと今回も話を聞いてくれるし、
聖たちよりはずっといい解決策を香音ちゃんにあげられる」
譜久村は生田に説明する。

「お~いいやん。香音ちゃんが前に相談した先輩に頼めばよかとね?」
生田は変わらず能天気に答える。

「その先輩がわからんのじゃ。
香音ちゃんが誰に相談したかわからんから頼むこともできん」
鞘師は少し苛立ちながら話す。
「うん。聖がもう少し突っ込んで聞けばよかったんだろうけど・・・
あの時はもう元気だったから、結果オーライだなって思っちゃって・・・」
譜久村も悔しそうに話す。


「なん言おうとや?誰かわからんのなら探せばいいっちゃん」
能天気な生田はこともなげに言った。

電気でも走ったかのような顔をして生田を見る二人。

「そうじゃ・・探せばいいんじゃ。
えりぽんでかした。
なんでこんな簡単なこと気付かんかったんじゃろ」
ブツブツという鞘師。頬は少し紅潮している。
「そうだね、探せばいいんだよ。
えりぽんすごーい」
譜久村は喜びで生田を抱きしめる。

生田は二人から褒められて嬉しそうに笑う。



「「「でも、どうやって?」」」
ひとしきり喜んだ3人が疑問を口に出したのはほぼ同時だった。


※ 

「二人に直接聞くんは・・・いけんよね、やっぱり」
口火を切ったのは生田であるが、二人の表情を見て諦める。



リゾナンターにとって『共鳴』はとても分かりやすい『絆』であり、
『支え』でもある。
それを拒否している鈴木。
事情が分かる先輩は直接聞いても教えてはくれないだろう。
聞いたことによって話しかけるように促すことも出来るが
二人の先輩がそれぞれに鈴木にアクションを起こせばきっと鈴木の心はもっとかたくなになる。

どうにか自然に鈴木が相談できるようにならないものか・・・。
部屋には何度目かの沈黙が訪れた。

「先輩って田中さんと道重さんなんじゃろうか?」
ぽつりと鞘師が言う。
「リゾナンターのメンバーなら素直に田中さんとか道重さんとか言ってもいいと思うんじゃ。
なんで香音ちゃんは先輩って言ったんじゃろ」
鞘師は疑問に思ったことをそのまま言葉にする。

「それって―――そんなに親しくはないけど相談して、、。
だから名前を言わなかったってこと?」
譜久村が鞘師の疑問をくみ取るように聞き返す。
鞘師はうなずいて見せた。

「たとえば高橋さんや新垣さん、光井さんとかリゾナントを去った人たちは
今の道重さんや田中さんほど仲良くなってはいないと思うんじゃ。
単純にとっさに言わなかっただけってこともあるかもしれんけど・・」
「そうっちゃない?だって誰に相談したかとかえり教えとうないけんね。
香音ちゃんも教えたくないんじゃなかったと?」
鞘師の話を止め、生田が自分の意見を述べる。

「そうかもしれないけど・・でも里保ちゃんの言う通り、先輩っていうのは少しよそよそすぎるよ。
考えすぎかもしれないけど、今2人に絞るのはよくないのかもしれない」
譜久村が二人の意見をまとめて指針を出す。
しかしそれは答えではなかった。

問題はまたもや暗礁に乗り上げてしまった――――。



投稿日時:2016/07/09(土) 01:33:21.65 ~2016/07/09(土) 20:21:45.04






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