(132)145 「ミライノユクエ」

まるで仁王のような強さ。
そう表現できるくらい、実力の差は明らかだった。

事実、「彼女」はその場に平然とした顔で立っていて。
聖は、全身ぼろぼろの状態で地に伏していた。
「天使の涙」を率いるリーダーには、一片の慈悲すら見当たらなかった。

「ダメだよ、みずきちゃん」
「わ、和田さん…」

辛うじて聖が首だけを懸命に上にあげると、そこにはいつの間にか近づきそしてしゃがみ込んでいた彩花がいた。
いつもは額を出して前髪を横に流した大人びた髪型をしているのに。
今日は、まるで「あの時の四人」で子供みたいにはしゃいでいた時のような、前髪を作っていた。
そうだ、あの時の彩花は。

思い出すまでもなく、上げた顔が地面に衝突する。
ものすごい力、自然界ではありえない力。それは禁断の能力、加速度操作。

「このプロジェクトのリーダーになるのは、あや。みずきちゃんじゃ無理だよ」
「そんな…み、みずきにだって」

上からの力に抗うように首をあげようとする聖。
しかしそれも「大いなる力」によってふたたび叩き潰される。

「道重さんがいなくなって。やっしーも、ずっきもいなくなって。そんなところに、矢島さんの後釜は、任せられないよ」

彩花の言葉に、頭が真っ白になってしまう聖。
そうだ。聖は。里保ちゃんを引き止めることも、香音ちゃんを思いとどまらせることもできなかった。
どうして。どうして道重さんは聖なんかをリーダーにしたのだろう。
誰か、他の子がもしもリーダーだったら…

そんな弱気な聖の心を、必死で支える存在が頭に浮かんだ。
春菜に衣梨奈。苦境をともに支え合ってきたサブリーダーたちだ。
彼女たちだけではない。優樹が。遥が。亜佑美が。さくらが。そして今はまだ拙い4人の後輩が。
負けられない。彼女たちのために、そして自分のために。絶対に負けられない。

「やあああああっ!!!!!」

彩花が、目を丸くする。
聖は、加速度操作の呪縛を断ち切り、そして立ち上がった。
想像を絶する過負荷により、白い肌は傷つき破れ、血にまみれている。
それでも彼女は、立っていた。

「おーすごいすごーい」
「聖たちには、道重さんから受け継がれたものがあるからっ! それを、未来に受け渡さなきゃいけないから!!」

天を裂き地を砕く聖の気迫。
彩花は純粋に、感動していた。していた、けど。


「でもね。あやには見えるんさぁ。みずきちゃんじゃ、ダメだって」

彩花の額に、前髪に隠された「第三の瞳」が見える。
全ての物事を見通せると謳われた神の眼は、いったい何を見たというのか。

「道重さんの。ううん、高橋さんの作った時代を受け継ぐのは、『天使の涙』。それだけは変わらない」
「そんなことない! 彩花ちゃんには、絶対に」
「…バイバイ、みずきちゃん」

一瞬のうちに繰り出される、彩花の超加速による手刀。
聖もまた、それを迎え撃つべく構えを取る。
彼女たちの未来は、何処へ。


投稿日時:2016/10/06(木) 21:56:46.75





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