(138)207 『リゾナンター(爻)シャオ』番外編 「滾る、光」2



ピンク色の看護服の女に追い詰められたところに現れた、仲間と思しき水色の看護服の女。
肩にかからない程度のやや短めの黒髪、きりりと上がった眉と瞳はいかにも自信に満ち溢れている。
そして。この女も、ピンクの女以上の「いいもの」をぶら下げている。
その春水にとって好ましくない存在の彼女が持ちかけたのは、意外な提案だった。

「なあ自分。うちらの、仲間にならへん?」

全体の印象同様、意志の強そうな目に、思わず引き込まれそうになる。
おそらく。春水は確信する。この女も、「尋常ならざる力」の持ち主であることを。

「まだ弱いけど、鍛えればそれなりにモノになりそうやしな」
「ああ。『先生』の施術で、もっと強くなれる」

二人の「看護師」に囲まれる春水。
しかしここは病院でもなんでもない。さらに言えば、何かの勧誘をされているようだ。
そこで、はたと春水は気付く。

「まさか。『弐狐動』使こうてうちをおびき出したのも」
「せやで。あんま高級な餌と違うけどな」

嬉しそうに語る、ピンク色の女。

「ま、うちらも色々手間暇かけてこないな機会を設けさせてもらってる次第や。労力に見合った成果を、上げんとな」

言いながら、手を差し伸べる水色の女。
春水は、その手を思い切り跳ね除けつつ。

「断る。うちは、今の環境で十分や」

はっきりそう言うことができた。
確かに馬鹿ばかりで下らない仲間たちだが、それでも楽しい日々を送っている。
何が良くて目の前の得体の知れない連中の仲間入りをしなければならないのだ。
そんなもの、選択肢にすらならない。

「…そんな腐った泥沼に沈むような人生で、ええの?」

だが、水色の女の辛辣な言葉が、春水の胸を深く抉る。

「く、腐った…やと!!」
「あんたがフィギュアスケートの世界で活躍してたんは、調査済みや。『能力』の発現がもとで、銀盤を追われたこと
も、な」
「!!」
「経緯は不幸やったけど。あんたのその能力は、神さんが与えた『宝物』や。それがあれば、うちらの組織に入れば。
何だってできる」

こんな呪われた力を「宝物」などと。
春水は反駁しようとするが、女の言葉の説得力が波のように押し寄せる。
彼女の言う組織、おそらく「能力」を持っている人間が何人もいるのだろう。そう考えると、女の嘯く「何でもできる」
という甘言も強ち嘘ではないのではないかとすら思わされた。

「その『悠宙舞』とかいう連中に、お前の何がわかんねん。所詮あいつらはうちら能力者のことなんて何も理解できひん
ボンクラどもや。そないな下らない存在とつるんで、何の意味があんねんな」
「……」
「うちらなら。うちの組織なら。自分のこと、輝かせたる。何やったら、フィギュアスケートの世界に戻したって」

ぱん、ぱん、ぱん。
そんな緩慢な拍手が、聞こえてくる。
春水自身の、拍手だ。

「あんた、随分雄弁なんやな。うちも思わず心動かされそうになったわ。せやけど」

言うや否や、鋭い蹴りを水色の女に向けて繰り出す。
舞うようなハイキックが、女の顔を捉えた。

「あんたらみたいに、人を人とも思わんような連中の仲間入りなんて、まっぴらごめんや!!」

目的のためなら、「弐狐動」を道具のように使い捨てる行為。
倒れている男に、さらに攻撃を打ち込む非道。
春水には見えていた。こんな連中の仲間になってしまったら、自分は「人」ではなくなってしまう。
どんなに腐ったって、それだけは嫌だ。

春水の足は、紅蓮の炎をあげて燃えている。
しかし。水色の女に燃え移る気配すらない。

「な、何やて…」
「もう一個言い忘れてたわ」

ピンク色の女が、嬉しそうにこちらに顔を突き出す。
短い間のやりとりだが、もうわかる。どうせ、ろくでもない話。

「あんたと同じ、言うたけど正確にはちゃうねん。うちらは…『機械』でできてるんやで」

次の瞬間、途轍もなく嫌な予感がして足を引き抜く。
水色の女は春水の足を握り損ね、それでも不燃性のブーツを恐ろしい握力で引き千切った。
一瞬でも判断が遅れていたら、足を砕かれていたことだろう。

「交渉決裂、にはまだ早いな。言うこと聞かへん野犬は…躾けたらええ」
「うち、『しつけ』好きやで?」

にまぁ、と笑いつつ再び春水ににじり寄ろうとするピンク色を、水色が制止する。

「弱いもん虐めなんか、気分のええもんと違う。ここはタイマンで勝負といこか」

来ていた皮ジャンを脱ぎ捨て、水色の女が一歩前に出た。
あまりに不可解な展開に、春水は思わず訊き返す。

「タイマン、やて?」
「うちは一切『能力』は使わへん。あんたは思う存分その燃える足技使こうたらええ」
「はぁ?一体どういう」
「それくらいハンデつけへんと、一方的になってまうからな」

春水のプライドが、激しく燃え上がる。
ええかっこしいが。絶対後悔させたる。肩は負傷しているものの、そんなことで根を上げるほどやわな根性はしていな
い。それに、相手が「能力を使わない」と言っている以上、負けるはずがない。とも思っていた。途中で後悔して能力
を使い始める頃には時すでに遅し、というくらいに速効で畳み掛ける気でいた。



「ぐっ、げっ、げぼっ…はぁっ…く、くそがぁ…!!」

春水が水色のナース服の女に攻撃を仕掛けてから、数分が経過していた。
何度も叩き込まれる、紅蓮の蹴り。大の大人でも苦痛に顔を歪める炎熱も、女にはまるで通用しない。
それどころか、蹴りの連続攻撃の隙を突いた、あまりにも重い拳の一撃。
春水の薄い腹がたまらず悲鳴を上げる。そして態勢を崩したところで今度は足を狙った容赦ない攻撃。ガードしようと
した手ごと叩き伏せられ、骨は軋み激痛が走る。

完全に、大人と子供の喧嘩だった。

「こんなんで終わり? でも安心しい。『組織』に入れば、今とは比べ物にならんほど強くなれる」
「だ…誰がお前らの仲間なんかに!うちには、『悠宙舞』がある!!おまえの…おまえなんかにぃ!!」

血反吐を吐き、何度地に叩き潰されようとも。
女たちの仲間になる気などまったくなかった。だが。

「ゆうちゅうぶ、って、これのこと?」

ピンク色の女がポケットをごそごそ探り、黒ずんだ布袋を取り出した。
黒、いや、そうではない。「中身」から滴り落ちる何かが、袋を染めているのだ。
ゆうちゅうぶってこれのこと。自然に引き攣ってゆく春水の表情を嬉しそうに見ながら。
中身を春水の前にぶちまける。
あるものは白く、そしてあるものは肌色、形もさまざま。球体のものもある。

「な…んなんこれ…」
「うちがここに駆けつけるまでにな。あんたのお仲間、みーんなちゃぷちゃぷしたったわ。そん時の戦利品」

血糊のべっとりとついた、指先。根から思い切り引き抜いた、歯。千切られた、耳。白と黒の、目玉。赤黒い、舌。
指に嵌められた指輪に、耳に彫られたタトゥー。舌先の、ピアス。
どれも、見覚えがあった。

「もうあんたの仲間はみーんなおらへん。これであんたが仲間入りを断る理由もなくなったやろ?」

にっこりと笑う、ピンクの女。
この女の言っていることは。言っていることの意味は。目の前の肉塊は。

嘘や。
嘘や嘘や嘘や
嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘嘘や嘘やうそやうそやうそやうそやうそやあああああ!!!!!!!!!!!!

仲間たちの笑顔が次々と浮かんでは消えてゆく。
泥沼のようにどうしようもなく淀んだ、それでも自分が見つけた最後の居場所。それなのに。
それすらも、奪われなければならないのか。

「うああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

炎が、炎の形をした殺気が春水の両脚から立ち昇る。
髪の毛は逆立ち、目は獣の色を呈し、目の前の二人を本能で射殺すかのように。

「なんやねん、こいつ…」
「…へえ。そんな『能力』も持ってるんや…いや、そっちがほんまの『能力』か」

明らかに嫌悪感を顕にするピンクの女と対照的に。
水色の女は、自分の心が躍り出そうとしているのを感じていた。
目の前の相手を、全力で叩き潰したい、と。

「freeze!!(動くな)」

そんな時だった。
どこからともなく聞こえてくる、流暢な英語。
次の瞬間に、何発かの乾いた銃声。さらには、二人の女の周囲が急速に煙り始めた。

「もう、何やの!」
「煙幕と催涙弾か!!」

視界が急速に奪われる中、物凄い迅さの「何か」が目の前を通り過ぎる感覚。
しまった、と思った時にはもう遅い。
煙幕がすっかり消え失せると、そこにはもう誰も居なかった。

「ちっ。やられた…」

鮮やかすぎる、何者かの手口。
こうもあっさりと「標的」を奪われると、感心すら覚える。そう言いたげに肩を竦める、水色の女。

「…あかん。生体反応消失や。完全に逃げられた。何もんや」

忌々しげに呟くピンクの女。
彼女たちの春水勧誘作戦が、完全に失敗に終わったことを意味していた。

「…えらい不機嫌やん」
「だって!もうちょいであいつ、仲間にできる思ったのに。それとあいつの『能力』…」
「ええやん。勧誘するほどの価値がある。それがわかっただけでもな」

嬉しそうに、水色の女が春水が連れ去られたと思しきほうを見やる。

「誰やか知らんけど…うちらから逃げられると思ったら大間違いやで」

そして、ここからは口にはしないが。

もしかしたらいつか。第二ラウンドがあるかもしれん。

女は、春水が一瞬だけ出した、恐ろしいほどの熱量を持つ殺気にいち早く気付いていた。
手負いの虎の一撃、下手したら、鋭い爪が自分に届いたかもしれない。と思うと、心が躍る。そんなことを想像する
だけで、楽しくなる。

だから水色の女は、気付かなかった。
自分の後ろで、複雑な表情を作っている相方の抱く感情に。



「Are you all right?(大丈夫?)」

声を、かけられている。英語。よく、わからない。
意識が、ゆっくりと戻ってくる。

「It was fortunate that I found her. But why would she be attacked...?(たまたま見つけたからよかったけど、
どうして彼女は襲われてたんだろう)」

今度は、声がはっきりと聞こえる。
春水は、その声から相手は外人の女性だろうと思った。

うち、ガイジンさんの知り合いなんておったかな…

そんな呆けたことを考えるのも、ほんの一瞬のこと。
冴えてくる意識は、嫌でも先程までの出来事を鮮明に蘇らせる。

ナース服の二人の女。仲間に勧誘。ありえへん強さ。仲間たちの、死…。死?

「ああああああっ!!!!!!!」
「わぁっ!?」

突然の絶叫。
叫ばずには、いられなかったのだ。
しかしそんな事情を知らない相手は、突拍子もない出来事に腰を抜かしてしまう。

「…あれ、あんた」
「え、あ。よかったぁ。酷くやられてたから、意識が戻らなかったらどうしようって」

見たことも無いような場所。
経緯はわからないが、今自分はこの田舎から出てきたような少女と一緒にいるようだ。
辺りを見回すと、薄暗い照明に照らされ、スコップやら台車やら何かの入った麻袋が見える。きっと工事現場の用具
倉庫か何かなのだろう。

そこまで把握した春水は、咄嗟に考える。
さっきまで自分に話しかけていたのは、金髪の外人の女の人のはず。
こんな野暮ったい顔の少女ではない。

「誰?」
「だ、誰って…そうか。自己紹介がまだだったもんね」

言いながら、少女は懐から黒のパスケースを取り出し、開いて見せる。
一生懸命に凛々しい表情を作っている、制服姿の少女の写真が見えた。写真の下は英語の羅列で何を書いているのか
は理解できないものの、辛うじて春水は一番目立つローマ字を解読する。

「え、と…Miki Nonaka ?」
「そう。私の名前は野中美希。あなたは?」
「はるな…尾形、春水」

こうしてぎこちないやり取りから始まった二人ではあったが、徐々に互いの状況を把握してゆく。
野中美希。年は、春水より1つ下。たまたま二人の女に襲われている春水を発見し、救出活動を実施したとのこと。
海外のとある機関に所属している「エージェント」だという。俄かには信じられない話、しかしあの身のこなしや武
器の扱いを見るとなんとなく真実に思えるような気がした。

「まあ確かに。煙幕の使い方とか、銃撃つとこなんてそれっぽかったけどな。ん? 銃?」

春水は気付く。
自分が美希の持っていた拳銃によって撃たれ、気を失ったことに。
美希は春水に、麻酔性のある弾丸を放ったのだった。

「おいこら!何してくれてんねん!!」
「ノ、ノー!!sorry!! でも、あの時はああするしか…」

いきなり牙を剥く春水に、美希は早くも及び腰。

「自分が邪魔せえへんかったら!!せえへんかったら…うちがあいつら、八つ裂きに!!!!!!」
「…されるところだったよ。たぶん」

しかし、美希は春水の憤りに対して首を振る。

「な、なんやて!!!!」
「私から見るにあの人たちの実力は…達人の領域に達してる。格闘術の経験すら無いあなたに、勝ち目があるとは思
えない。例えあなたが、異能の持ち主だとしても」
「ぐっ…!!」

確かに美希の言う通りだ。
自分に格闘の心得があるかと言えば答えはノーだ。付け焼刃の喧嘩殺法、しかも大してフィジカルがあるわけでもな
い。そもそも、フィギュアを辞めるまで喧嘩らしい喧嘩ひとつしたことなかったのだ。

そこで、春水はふとあることに気付く。
美希は、自分のことを「異能の持ち主」と言った。
何故、そのことを知っているのか。たまたま見かけただけでそんなことがわかるのか。

「あんた、どうしてうちが…」

言うより早く、美希が手を前に翳す。
俄かに、手のひらがうっすら光を帯びてきた。
よくよく見ると、覆っているのは。細かい、電流。

「私があなたのことを『能力者』と認識できるReazon。それは、私も『異能の持ち主』だから」

美希もまた、能力者。
今日はなんて日だろう。自分にしかないと思っていた呪われた力を、何人もの人間が持っている。あまりに出来過ぎ
た話だとは思うが、今目の前で繰り広げられてることもまた、事実。

「だから。あの二人の実力も、よくわかる。たぶん…私の力をフルバーストでぶつけたとしても」
「そんな…って、せや! 仲間は!! うちの仲間は!!!!」

二人の女を再び話題に出されて、春水は再び取り乱す。
あんな指から、歯から、目玉、舌まで。本当に、仲間たちはあいつらの手にかかって殺されたのか。そんな馬鹿なこ
とがこの日本で、行えるのか。もし本当なら、絶対に、絶対に許さない。

「待って。それ自体が、あの人たちの罠かもしれない」
「はぁ!?」
「時間がないわ。あなたの仲間の、名前を教えて」



実に恐るべき手際の早さだった。
美希は手帳サイズのモバイルPCに春水から聞いた仲間たちの情報を入力し、短時間のうちに住所から電話番号まで
を徹底的に調べ上げた。そして、公共機関の人間を装い、全員の安否を確認。結果、誰ひとりとして女たちの襲撃を
受けたものはいないことがわかったのだ。

「…どう? 少しは安心した?」
「あ、ああ。十分や…」

少しはどころではない。
彼らが無事なのとそうでないのとでは天と地ほどの差がある。
心は闇に塗り潰され、自分はどうなってもいいからあの二人を刺し違えてでも殺す、という復讐心によってのみ生き
る存在になっていたかもしれない。

「くそ!下手な小細工しおって」
「stateじゃ常套手段だよ。と言っても南部のほうから流れてきたメキシコ系のマフィアの手口だけど」
「マフィアて。あんた、何者やねん」
「言ったでしょ。とある機関に所属するエージェントだって」

これだけ言っても信じてもらえないなんて。
明らかにそう言いたげな困った表情を見てると、春水は目の前の少女をからかいたくなってしまった。

「にしても難儀やなあ。こないなうちの事情に巻き込まれて。あいつら、きっとうちのことまた狙って来よんで? 
あんた、何か任務があってこっち来たのと違うん?」
「うう…それは…そういうことも、めったにないことじゃないし」
「ああ、そうなんや。つまり、巻き込まれ体質ってことやな」
「え!いや!そういうわけじゃ…そういうこともあることはあるかもだけど!!」

巻き込まれ体質、という単語に明らかに反応し、狼狽える美希。
図星だったようだ。

それにしても、と春水は思う。
美希に語った通り、あの連中はもう一度自分を誘いに来るだろう。その時にちらつかせる脅しが、今回のようにブラ
フである保証はどこにもない。

「もう…戻れんか」

言いながら、着ていた水色の特攻服を棚にかけた。
自分のために、「仲間たち」が危険に晒されるなど考えたくもないことだった。

「oh…あなた、ジャパニーズヤンキーだったの?」
「アホか。こんなんあいつらが勝手に…そもそもうちはヤンキーになんてなった覚えは」

不意に、「悠宙舞」の仲間たちと過ごした日々が脳裏を掠める。
確かに、腐った泥沼に浸かっているようなのんべんだらりとした生活だったのもしれない。フィギュアスケートの失
敗から目を背け、現実逃避するには持って来いの、温い場所だったのかもしれない。

けれど。
緩い仲間たちと馬鹿をやって、騒いで。笑って。
くだらない日々だけれど、春水にとっては掛け替えのない日々。掛け替えのない、仲間たちだった。

「く…う…ううっ…」

悔しかった。
大切な物を、理不尽に奪われることが。
春水の目に、光る一筋がゆっくりと流れていった。

「うち、これからどないしたらええんや…」

誰に問いかけるわけでもなく、自然にそんな言葉が口をつく。
「悠宙舞」に戻れないのなら、他にもう戻る場所なんてどこにもない。
フィギュアを失った瞬間に他人の子を見るような態度になった両親のところなど論外だ。

「ねえ。よかったら…私と一緒に東京に出ない?」
「は?」

春水にとって、あまりに突拍子もない提案だった。
しかし美希は呆気に取られる春水をよそに話を続ける。

「実はね、今回の任務も元はと言えばうちの機構のアドバイザーに紹介されたものなの。その人なら、きっとあなた
の力になってくれる。それに確か、その人の知り合いが東京にいるはず」
「…あんたの任務はどないすんねん」
「大丈夫。簡単な仕事だから、すぐに終わると思う。そうしたら、すぐにでも大阪を発とう?」

いきなり現れた少女に、まさか東京に行こうなどと持ちかけられるとは。
果たして本当に信頼できる相手なのだろうか。うまいことを言って、自分をどこかに売り渡したりするのでは。

「あの…」
「ん?」
「実は、必死で例の連中から逃げて適当な場所に入り込んだから」
「まさか」
「ここがどこだか、わからなくなっちゃって。一応、モバイルで地図は出るから…知ってる場所まで案内していただ
けると、ありがたいかなー、なんて」
「あんた、方向音痴か!!」

自称、機構のエージェント。
だが、どことなく抜けている。
もしかしたら、彼女なら、信じてみても損は無いのかもしれない。
春水は自分の直感を信じることにした。

「わかった。うちにはもう打つ手なんかあらへんし。しばらくついてくことにするわ」
「Realy!?」

何故だろう。この状況はどう考えても春水の状況に美希が巻き込まれているようにしか見えないが。
それでも、美希の嬉しそうな顔を見ているとそれでもいいか、本人も望んでるんやし。と思えてくるから不思議なもの。

こうして、春水と美希は出会った。
生まれも、育った環境も違う二つの小さな流れはここに合流することとなる。
だが彼女たちは知らない。
その先に待ち受ける、より大きな流れの存在に。


投稿日時:2017/01/03(火) 20:33:50.91







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