(145)29 『ちぇるさく保全』

「……私、死ねないんですよ」
「…………」
「死ねないことに、なっているんです」
「…………」
「そんな怖い顔しないでくださいよぉ」
「いや、急に私の名言をパクるからさぁ」
「私にもこういう名言欲しいんです。よりによって今回、私じゃなく春水ちゃんが助けに来ちゃったし」
「残念だったね、キミの出番なくて」
「そうなんですよ!小田さんのピンチに駆けつけるのは野中の特権なんですよ!」


「特権じゃないけどね。キミはその時何してたの?」
「え……いや~…そのぉ~…」
「………迷子か?」
「うっ」
「迷ってたのか?」
「うぅっ…」
「そうなんだね?」
「……違います、迷子じゃないです」
「じゃあ何?」
「えーっと……」
「ほら出てこないじゃん言い訳が」 

「んー…あ、あ、そうです、試してたんです!」
「何を?」
「自分の“空気調律(エア・コンディショニング)”のチカラを!」
「………ん?」
「“空気調律(エア・コンディショニング)”で物理的なズレを生み出せるじゃないですか。あれの有効範囲ってどんなものなのかなって」
「……それで?」
「それでー、えー、物凄い勢いでチカラが発動して、あのー、私以外の人みんながずれちゃって、電車も遅れちゃって、」
「迷ってたのね?」
「ハイ、迷ってマシタ……」 

「言い訳にしてはつまらないよ、全米の半分も泣かないよ」
「じゃあ小田さんが全宇宙が泣くくらいの言い訳考えてくださいよ」
「えー……迷子の仔犬拾って飼い主探してたら遅くなりましたとか?」
「ベタですねぇ」
「ディスられる意味が分からないんだけど」
「そもそも全宇宙がなくってどういう状況ですか?」
「自分で言い出したくせに…」

「とにかく野中も名言欲しいんです!」
「欲しがりだなぁ…」
「私だって>>1を飾る名言を言いたんです」
「ふーん…あ、あるじゃん」
「え、なんです?」
「なに、言ってるんだよ、チェルシー、君は僕に恋という魔法の媚薬をくれたじゃないか」
「それ私じゃないです!」
「良いセリフだよね、私も一回言われてみたい」
「じゃあここは野中が言ってあげますよ!」
「いらない」
「なんでですかぁ!」

「あ、そろそろ終わらないと飽きられちゃうって。そもそも面白がられてないけどね、この保全方法」
「小田さぁん」
「シリアスしか書けない人にこういうのを書かせちゃダメっていう典型的な見本例だったね」
「うぅ…」
「あとは任せましたよ、ホゼナンターのみなさん。ほら、ちぇるしも帰るよ」
「はぁい」

………


―――「………お待たせしました、小田さん」


「割と私、あのセリフ好きなんだけどね」 


投稿日時:2017/04/04(火) 23:49:33.51



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