(115)230 「りほりほこわい」
- ここは喫茶リゾナント。 
 常連客のほかは大した客の入りもなく、暇を持て余したリゾナンターたちが何気ない会話を繰り広げていた。
 そのうち、有事は悪と戦うリゾナンターの性質が故に、弱点克服という観点から互いの嫌いなもの・苦手なものを言い合っていくことに。
 「ハルはおばけが嫌いだな。おばけ屋敷とか無理無理!!」
 「かのは体重計が嫌なんだろうね」
 「あたしは高級なものが苦手かも。見ただけで白目剥いちゃう」
 「私は石田さんが苦手です」
 「はぁ!?あたしだって小田のこと苦手だし!」
 そのうち、リゾナントの店主である道重が帰ってくる。
 「みんな何話してるの?」
 「あ、いえ。ダークネスに舐められないように、互いの苦手なものを言い合って克服しようと思って」
 話の輪に入ってきた道重に、恐縮しながらことのあらましを話す工藤。
 すると、道重は心底呆れたような顔をして、
 「リゾナンターとあろうものが情けないの。さゆみは怖いものなんかないの」
 と言い放った。
 確かに道重はリゾナンターのオリジナルメンバー。今のメンバーでは経験したことのない数々の修羅場を潜ってきたことであろう。しかし、彼女が心を
 持つ人間である限り、怖いものが何一つないなど、ありえない話。その言葉を疑った小田が、道重に問いただす。
- 「道重さん、本当に怖いものはないんですか?」 
 「当たり前なの」
 「本当に?」
 最初は自信満々に答えていた道重だが、ついに小田のしつこい追及に負けてしまう。
 「本当は…りほりほが怖いの」
 小声で、呟いた道重の本音。
 鞘師と言えば、若手ナンバーワンの実力者。もはやリゾナンターにとってなくてはならない戦力である。
 めきめきと力をつけつつある逸材の台頭に、道重が怯えているとしても何ら不思議はない。
 恐怖からなのか、道重の顔はみるみるうちに紅潮してしまう。
 「ああ、りほりほのことを思い出しただけで興ふ…じゃなかった、気分が悪くなってきたの。今日はもう寝るの」
 そそくさと2階に上がってゆく道重を見て、後輩たちは一様に閃いたような表情になる。
 これは、生きるレジェンドこと道重さゆみを倒すチャンスなのではなかろうかと。
 治癒の力を自在に操り、さらに姉人格であるさえみは全てを滅する滅びの力の使い手。それを倒したとなれば、きっとこれからの彼女たちの活動の礎となるはず。
 「よし、鞘師さんの部屋に行くぞ」
 「里保ちゃんに纏わるありとあらゆるものを道重さんの部屋に投げ込むんだろうね」
 鼻息を荒くした工藤鈴木を先頭に、喫茶店のすぐ側にある鞘師のアパートへと乗り込む一行。
 鈴木の透過能力で侵入した先には、鞘師がごみとも布団ともつかない物体の中で丸まって寝ていた。
 「これは想像以上の汚部屋ですね…」
 「とりあえずめぼしい物はすべてこのビニール袋に詰め込もう」
 床に散らばる有象無象の品々を袋に放り込み、勢い勇んで道重の部屋に。
 部屋の奥からは、苦しげな道重の声が聞こえてくる。
- 「ああ~、こんな弱ってる状態でりほりほの脱ぎたてのTシャツを投げ込まれたらたいへんなことになるの~。
- できれば湯気が出ているやつがいい…じゃなくて死んでしまうの~」 
 そんな道重の呻きを聞き、チャンスとばかりに鞘師の部屋で得た戦利品たちを次々と部屋に投げ込む四人。
 「やめてなの~!え、こっこれはりほりほのパン…ああぁっふっふぅ!!!!!!」
 「やった!相当効いてるぞこれは!!」
 昼間には決して聞けないような喘ぎ声、もとい断末魔の声を聞いて自分たちの考えが間違っていなかったことを確信する若きリゾナンター。そんな彼女たちに、道重の懇願の声が聞こえてくる。
 「こんな状態で裸んぼのりほりほに『パァー!』されたら、さゆみもう昇天しちゃうの!それだけはやめてなの!!」
 今こそとどめの瞬間。この機を逃したら永遠に道重には勝てないかもしれない。
 四人の決意は固く、勢いのままに鞘師の部屋になだれ込む。
 「え、ちょ、なになに」
 「鞘師さんごめんなさい!」
 「何も言わずに裸になるんだろうね!」
 汚布団を剥され、何が起きてるのかもわからないまま、ひん剥かれる鞘師。
 全裸にされた鞘師はそのまま喫茶リゾナントに運び込まれ、道重の部屋に投げ捨てられた。
 「いたっ!一体何が何だか…」
 床に転がった鞘師が上を見上げると、そこには目をキラリン!と光らせたピンクの悪魔が。
- 「さっ鞘師?鞘師はあれだよね、まだ15歳?15歳だよね?」 
 「17になりましたが何か…」
 「あああ、こんなに怖いりほりほが裸んぼで現れたら、さゆみはもうペロペロするしかないの」
 「は?」
 「さあ、さゆみと一緒にシャバダバドゥーするの!!!!!」
 ぎゃあああああああ、と聞こえてきたのは道重ではなく鞘師の断末魔。
 そこではあの感動の横浜アリーナ以上のことが行われたのは間違いない。
 「み、みっしげさん…本当は何が怖いんですか…」
 数分後。
 髪は乱れ、涙目になった鞘師が道重に訊ねる。
 若いエキスを存分に堪能した道重は、上機嫌に、
 「さゆみは本当はまりあちゃんが怖いの。若ければ若いほどいいの」
 と答えた。
 すると、鞘師の瞳が。
 血走っているわけでもない。彼女はまるでカラーコンタクトを入れたかのように深い赤の瞳を有していた。
 自慢の長くて艶のある黒髪も、その毛先数センチが赤く染まっていた。
 道重は深淵を覗き込んだ。そこには翼を携えた魔王がいた。
 「そんなこと、鞘師は、しない」
 「散々弄んでおいて、もう遅いけえのう!」
 まるで次元震かのような衝撃が、部屋を包み込む。
-                      ◇ 
- 道重の部屋の中で、何が行われていたか、外で様子を窺う四人には知る由もない。  
 ただ、喫茶店ごと吹き飛ぶのではないかという衝撃のあとに、
- ぼろぼろの道重が這い出るように部屋から出てきたのは間違いのない事実だった。  
 「…道重さん。本当は、何が怖いんですか」
 「あ、赤い目をしたりほりほが…怖い…の」
 そう呟いたきり、道重はぱたりと倒れてしまった。
 ピンクの悪魔、破れたり。
 かの落語の名作「まんじゅうこわい」では、一番怖いのは人の欲だということを説いたが。
- 本当に怖いのは嫉妬の心なのかもしれない。  
 若きリゾナンターたちはまた一つ、先輩から知識を学んだのであった。
投稿日時:2016/02/25(木) 21:27:07.90
作者コメント
某ハロヲタ落語家さんの没ネタに同名のタイトルがあったそうで。  
いや明らかにそこからパク…リゾナントしたんですがw
あと『deep inside of you』 の作者さんごめんちゃいまりあ。
いや明らかにそこからパク…リゾナントしたんですがw
あと『deep inside of you』 の作者さんごめんちゃいまりあ。
≪return≫スレ別分類:100~125話へ

