(124)326『ズッキの決意(仮)タイトル募集中。。。』1

※ 


ぬるま湯と言ったのは誰だっただろうか。 
確かにリゾナントは居心地がよく、幸せに満ち満ちていた。 
けれど、ぬるま湯なだけでは決して、決してなかった。 


「それで、本当にいいわけ?」 
突き刺すような冷たい声で聞かれる。 
先輩は分かっている、なにもかも。 
それでも私に問いかける。 
「はい、もうこれ以上は出来ません。。。里保ちゃんがいなくなったここらが潮時だと思います」 
どちらの道を進もうが私にとっては苦しみが増えるだけだ。 
だから私は本心をそのまま決意として表明した。 

「鈴木、あんたにはいくつもの選択肢がある。 
単純な道しか思い浮かばへんのかもしれんけど、ほかにも道はあるかもしれん。それでもそうしたいんか?」 
先輩は先輩らしくなくさらに問いかける。 

先輩は悔しいのだ。悔しくて辛くて仕方がなくてだから私に他の道を進んでほしいのだ。 
それが無理なことだとお互い分かっていながら。 


「光井さん、私諦めたわけでも逃げるわけでもありません。 
自分が選んだ道によってどうなるか、他の道に進んだらどうなるか、、、。 
いろんなことたくさん考えました。これが一番いい方法なんです。 
それは光井さんにも分かってもらえると思います」 
私はそこで言い切った。 
迷いはすでにないんだ。 
里保ちゃんがいなくなることを知った時から・・・
ううん、たぶん道重さんの時から私はいずれ私がこの道を選ぶことを知っていた。 
決断が少々遅れたけど、でも今なら引き返せる。 

だから 

だから私はみんなのために、私のために戦わなきゃいけない。


● 


言葉を発さず机を見つめる光井に「失礼します」と声をかけ鈴木はその場から立ち去る。 
光井は鈴木の気配が消えて抑えていたものが抑えきれなくなってしまった。 

「鈴木、あんたはバカやで、、、」 

その言葉は誰にも届かずただ光井の胸を締め付けるだけだった。 


光井が鈴木の異変に気付いたのは新垣がリゾナントを離れて少ししてからだった。 
たまに顔を合わす機会はあったけれど光井自身リゾンナントを離れた身、極端に干渉することはさけていた。 
それに離れた光井が分かって今のリゾナントのみんなが分からないはずがない。 
まだ田中さんや道重さんもいる。だから大丈夫。 
そう思って放置していたのがまずかった。 

その時はみんなが個々でもリゾナンターとしても大変な時期だった。 
だからいつも笑顔で自己主張が大きくない鈴木のことに気付いて何かをするメンバーはいなかった。 
その間、鈴木は一人で悩み苦しみ取ってはいけない選択をしてしまった。


※ 

私はお父さんが大好きだ。正義感が強く、正しいことを行うことになんのためらいもなかった。 
料理が上手でいろんな美味しいものを作ってくれた。 
たくさん笑わせてくれた。 
そしてたくさん私を愛してくれた。そんなお父さんが大好きだ。 
それはリゾンナントのみんなに持つ感情とはどうしても違うものだった。 
お父さんがいなくなった寂しさは少しずつ癒えはしたけれど、不完全だった。 

「あなたのお父さんは我々と一緒にいます」 
送り主が誰とも分からないメール。 
いたずらだと激高しそうになったが、添付された画像を見て驚愕した。 
携帯を持つ手が震え、涙が自然とこみ上げ画面が見えづらくなった。 
そこにはお父さんがいた。 

罠だ。 
分かっていた。 
けれど、2件目のメールに「香音」と私を呼ぶお父さんの声を聞いて止められなかった。 
待ち合わせ場所に指定された空き地に一人で向かった。 
そこには白衣を着た女性が待っていた。


※ 

「初めまして、鈴木香音ちゃん。私はコンノアサミと申します。どうぞよろしく」 
Dr.マルシェのほうがわかるかな。 
そう言って白衣の女性は微笑んだ。 
どちらの名前でもわかる。ダークネスの科学者。エッグを作った人。 
「早速本題に入らせてもらうね。君のお父さんの命と君の気持ちとどちらが大事かな?」 
『お父さん』と言われ身構えたけど質問の意味が分からなかった。 
私のきょとん顔に白衣の女性はちょっと考え言葉を紡いだ。 
「君のお父さんは私の研究所にいる。ちょっとした実験の被験者になったんだ。それで運よく?運悪く?生き返ってしまった。実際死んでたわけじゃないけど、この言い方のほうが分かりやすいと思う。 
実験のモルモットだからこの先はどうなってもいい。どうしたっていい。ここまで、分かった?」 
白衣の女性は子供に算数でも教えているような口調で説明した。 

つまりお父さんはあの時死んでいなくて何らかの実験に使われた。 
そして命は尽きていなかった。 
研究所に今まで隠していたってことは何らかの理由があってそれも解決した、
あるいは解決できなくなって捨てることが決まった。


「おぉ。なかなか理解力がある子だねぇ」 
白衣の女性はそう言いながらぽけぽけと微笑む。 
くそ、殴ってやりたい。 
「ご明察。 
実験の内容をもうちょっとかいつまんで話すと人為的な精神感応と能力付加。 
どちらも片方だけなら成功例はあるから二つ、三つと増やせるかどうかの実験だよ。 
精神感応に関しては成功率は高いんだけど能力付加はその実験体や能力によってまちまちなんだよね。 
そのデータを取るためにもいろんな年代の男女が必要だったんだ。 
あぁ、でも誤解しないでね。 
私たちはお父さんの「死にゆくからだ」を買っただけで、わざわざ殺そうとしたりはしていないよ。 
それはどこか他の人たちがやったんだと思うよ。 
とにかく私たちはお父さんの「死にゆくからだ」を買って能力付加を施した。 
人間瀕死の時のほうが受け入れる確率も高いからね。それから肉体の再生を。 
能力付加に比べて肉体再生は楽でいいね。細かい数値を気にしなくてもいい。 
それでとにかく君のお父さんは生き返った。端的に言うとね」 
急に早口でまくしたてられた。私が聞いてるかどうかもかまわずに 

「精神に触れるにはまずその人間の精神がきちんと機能していなくてはならない。 
意識がないといけないんだ。自分は自分だっていう。 
けど、君のお父さんはなかった・・・いや、よくあることっていえばよくあることかな。 
事故の衝撃で記憶喪失になったりするでしょう? 
あんな感じかな・・・うん、最初はそう思っていた。 
ただの記憶喪失やただの脳機能損失や損傷ならそれを直せばよかったんだけど・・・ 
ところで君は君のお父さんが能力者だって知ってた?」 

「へぇ?!」 
唐突の質問に少しばかり大きな声を出してしまった。 

「その様子だと知らなかったみたいだね。そうだろうね。私たちもそうだったし、売ってきた人たちも。 
お父さんに生前・・・なんて言えばいいんだろ。まっ、私たちが買う以前に能力があった兆候はまったくなかった。 
死にゆくからだとはいえ、そのなかにも能力の存在は認められなかった。機械的にも能力者に読み取らせても。 
一応何重にもチェックはしていたんだよ。だけどわからなかった。 
それが時限式の能力だったかから。 
これは仮説でしかないんだけど、私的には結構いい線言ってると思う。 
時限式であり、無意識的であり、無自覚であり。 
君のお父さんはおそらく君の能力について少し思い当たる節はあったんだと思うよ。 
だから『知って』いた。そして『予感』もしていた。自分の未来に。 
私の個人的見解によれば人間は個々に多少なりとも能力があり、その能力の強さや異質さが人間と我々を隔てる一つの目印になる。君らの場合にはそこに共鳴も入るのかな。 とにかく君のお父さんは君ほどの恒常的能力はなかったけれども、瀕死になったときの能力解放ですべてを出し切り、
自分自身に能力をかけた。 ここまで長々とスピーチしておきながらなんだけど、私たちはまだその能力の全容解明には至ってないんだ。だって君のお父さんに能力付加しちゃったから近づけなくてね。精神に干渉できないから君のお父さんはただやみくもに暴れる手負いの熊みたいなんだ。
だけど、興味深いよね人間って。君のお父さんは君のことだけはたまに思い出すんだ。
そしてメールにも送ったとおり、君の名前を呼ぶ」 
この白衣の女性は一般市民を犬か猫のように人間と呼んだ。 

だめだ、私はどうしてもこの人を好きになれない。


「おおっ、こんなにも話してしまった。 鈴木香音ちゃん、ようやく本題だよ」 
私が睨んでいるのを無視して私の目をのぞき込んでくる。 
「君は君自身の気持ちと君のお父さんの命、どちらが大事かな? 
さっきも言った通りお父さんはもう用済みなんだ。能力の中身についてとかいろんなことはまだまだ研究したいところだけどそれ以上にコストがかかりすぎる。お父さんのために特別室をずーっと使わなきゃいけない。 
正直、他のもっと早く実験結果が出る被検体に使いたいんだ。だけど君が我々の側につくならお父さんの命は取らないよ。実験を続けるし続ける限り生かしておいてあげる。別に100パーセント寝返らなくてもいい。 
どうせ信用できないし。だからリゾナントの動向をほんの少し教えてくれればいい。それだけで君のお父さんの命は助かる。でも君の気持ち的にはいやだろうね。仲間を裏切ってスパイの真似事をするなんて。 
だから、君はどっちが大事なの?」 
とても愉快そうに白衣の女性は私に問いかける。 

これも罠だ。お父さんの命は私の気持ちよりも優先される。 
けど、動向を教えるだけでは済まないだろうし、教えた結果みんなが死ぬなんて結果にもなるかもしれない。 
そんなことはなんとしてでも避けなければいけない。 

「今決めなくてもいいよ。そうだなぁ・・明日の同じ時間君を私の研究所にご招待しよう。その時に決めればいいよ。
どちらにしてもお父さんに会いたいでしょ?」 
罠だ。私の頭の中で警報が鳴り響く。 

「結構です!!!!」 
だけど私の声を聞く人はもうそこにいなかった。 
白衣の女性は一瞬のうちに消えてしまった。


投稿日時:2016/07/05(火) 00:56:30.99 


作者コメント
ズッキの決意(仮)タイトル募集中。。。 
みなさんのレスに勢いに乗って書いてしまった。 
後悔はしていない。 
眠気で節穴になってしまった。 
後悔はしている。




ページの先頭へ