(151)117  『先輩の意地』-over the limit-3


「さて、と。それじゃメンバーは揃ったし、早速やりますかー」

「分かりました」

真莉愛とはじめましての握手を交わした後で、新垣さんが衣梨と小田に合図を送る。

「生田、真莉愛ちゃん、準備は良い?……私の手を握ったら、精神を集中して。
 今から私の中に二人を引き込むから、そのつもりで」

衣梨達は緊張気味に頷くと、サポート役の小田からヘッドセットを受け取って各自装着する。
もう既に集中し始めている新垣さんの左手を絶対に離すまいと握りしめた。
目を閉じて呼吸を整えて集中していく。
視界も音も、次第に世界がシャットアウトされていく。

実際には引き込むと言うよりも新垣さんを通して、
衣梨と真莉愛の精神が一緒の状態になる、って事らしい。
新垣さんが吸い上げた2人の精神情報をお互いへと精神世界の映像として見せてるだけ、と聞かされた。
訓練でも実践でもこんな芸当は疲れるから滅多にやらない、とは言っていたけれど。

それでも。
――人の心が、魂が壊れれば。魂の器である肉体はただ朽ちていくのみ――

使いこなせなければただの人、使いこなせばそれこそ自らの手を汚さずに、
内側から破壊しつくす事も可能なそれはそれは凶悪な兵器にもなりうる。
その事は精神崩壊をどうにかこうにか使いこなせるようになって来た衣梨にも良く分かっている事だった。

目を閉じた状態でチラチラと網膜の裏側から漏れる光の粒子もだんだんと見えなくなってきて、
新垣さんの能力で、3人の精神融合が始まったのを感じとる。
精神世界での闇の空間は新垣さんのモノ、以前からそう聞かされていた。

そして闇の底から次第に世界が再構築されていく。
すっかり真っ暗闇になってしまった視界の奥から次第に淡い色の光の糸が1本、また1本と見えてくる。
何も出来ずにぐるりぐるりと伸びて来た光の糸に身体中を絡め捕られて、
衣梨を構成する成分の何かがボロボロと剥がれ落ちていきそうな気持ちになる。

その糸からなのかそれとも脳に直接なのか、新垣さんの声が聞こえてくる。
ああ、これが新垣さんの能力か、と思ってホッとする。

「―た……生田ぁ、聞こえるぅ?」

「はい、新垣さん」

「これから見えるのがどんな状況であれ……真莉愛ちゃんを、助けてやってね。
 さえみさんが今は危険って判断して押し込めてた彼女の記憶の断片、それを思いっきり壊してやって」

記憶の、断片。良いモノだろうと悪いモノだろうと誰しもが持っているモノだ。
押し込めて無かった事にしていたのに。それを壊した先には未来があるという。
真莉愛の、それとも私達リゾナンターの、未来が。
今は新垣さんと未来を見た光井さんを、そして自分自身を信じるしかない。

「……はい、新垣さん」

「うん。大丈夫…生田なら出来る。
 目を覚ましたら生きて会えるって。信じてるからね、生田。
 もう、ここから先は声も出せないし、私の命ごとアンタに任せるから。2人で、帰っておいで」

「はいっ!」

新垣さんとの約束は絶対。そう思って力強く答える。

「うん、よし。……行ってらっしゃい、生田」

新垣さんからの小さな声が聞こえると同時に、衣梨は光の洪水に飲み込まれていった。 


投稿日時:2017/06/22(木) 23:31:53.25



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