(158)157 「光が紡ぐ未来」

それは決戦前夜。
以前の日常を捨てるように前に進むための戦いへ。
体力温存のために僅かな休憩をする事となった。
異能者である以前に、彼女達は人間。

眠気眼が見開かれた先に、静かに佇むのは頼りの仲間。

 「おはよう愛ちゃん」
 「ごめ、どれぐらい経った?」
 「まだ30分しか経ってないよ。皆まだ眠ってる」
 「ガキさん交代しよう。あーしはもう良いから」
 「その前に、愛ちゃんにもう一度確認したい」
 「……二度は無い。もう引き戻れんよ」
 「いくら生まれがあの組織からだとはいえ、愛ちゃんは
  普通に暮らしても良いんだよ。全てを私に被せれば
  あっちは今の生活を約束してくれる。
  スパイである私を差し出せヴぁ…」

頬を摘ままれ、言葉が濁る。
その姿に笑って、歯を見せた。

 「あーしが望む世界にガキさんがおらんのは、ちょっと寂しいな。
  生きてさえいれば全てが上手くいく。そう思わんか?」
 「…たくさんやりたい事、あったんじゃないの?
  引き戻せないなら、二度と引き戻せない可能性だってあるんだ。
  その可能性の方がきっと高い。やりたい事が全部消えるよ」
 「いつも思うけど、あんたは頭使いすぎやよ。
  もっと良い方に考えればいいのに、そのおかげで今までも
  たくさん助けてもらっとるんやけどね」
 「この道は真っ暗で、闇に溶けこんでる。まるで光が小さく見えるの」
 「皆で照らせば怖くないやろ。頼りない光を、大きく皆で囲って。
  ガキさんも一緒に囲ってくれるやろ、小さな、本当に小さな光を」
 「…全部終わったら、どうするの?」

 「そうやなあ…もっと光を増やす、かな。九人の光が小さいなら
  もっともっと増やせばいい。あーしらの共鳴はそのためのものやから」
 「もし、この戦いで減ってしまうことになったら…?」
 「考えは変えん。この希望を途絶えない事が、あーしらに出来る小さな
  光だと思っとる。増やす事がきっと、あーしらの運命とやらの願いやよ」
 「…分かった。もう何も言わない。私もその希望、見てみたくなった」

無数の星々が煌めき、散っていった。
静かな世界が大きく揺るがされ、半数を失って、光が、現れる。
九つの光が瞬き落ちていく姿に誰かは両手を上げる。
掬いとった光に繋がれた細い線と、結ばれた共の心。

 「どうしたとーみずき」
 「ん?いや、なんか今星が落ちてった気がして」
 「え?それ流れ星やないと?」
 「そうなのかな?一瞬だったからよく分かんなかった」
 「願い事を聞く暇もないって感じやんね。伝説だし」
 「でも伝説になるぐらいなんだから、誰かは叶ってるのかも」
 「叶わないから希望として伝説になったんやない?」
 「えりぽんならどうやって願いを叶えてもらう?」
 「そんなの、手と足で叶いに行くに決まっとるやん。努力努力」
 「努力でも叶わないってなったら?」
 「そんな事絶対ないから。人が努力しないって事ないから」
 「どうして言い切れるの?」

 「したことがないっていうんなら、苦しい事すらせんって」
 「ふうん、そういうものなのかな」
 「その証拠がえりだから」
 「そっか。そうだね」 

コーヒーの匂いが辺りに漂う。
壁には色褪せた写真の隣に、新しい写真たちが並ぶ。
常連客の中で譲渡の声を何度も聞くが、その予定はない。
再びその景色を眺める先輩の懐かしい表情を見てしまえば分かるだろう。
料理の詰まれた皿にフォークを刺し入れ、口に含む。
何十種類ものオリジナルレシピのノートを全て頭に叩き込んでいる。

いつか先代達に披露できるよう腕を訛らせない様に何度も作る。

 「じゃ、そろそろ寝るよ。明日も早いけん」
 「おやすみ」
 「みずきー」
 「んー?」
 「…なんでもなーい」

明日もよろしく。その次の日も。そのまた次の日も。

星が散って、落ちていく。
辿り着いた先でもまた、多くの光に囲まれるだろう。
自分の手と足で集まれ光よ、胸の高鳴る方へ。 


投稿日時:2017/10/16(月) 03:44:48.80





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