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(121)108 『リゾナンター爻(シャオ)』79話

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「『銀翼の天使』の、帰還を確認いたしました」 
「状態は」 
「意識レベルにおいては確認できませんが、目立った外傷はないようです」 
「結構。すぐに、総合医務室に搬送をお願いします」 
「はっ!!」 

ダークネス本拠地。 
「天使の檻」からの中継画像が消えてゆくのを眺めながら、紺野はゲート発生装置前に待機している構成員に指示を出す。 
装置は本来、紺野以外に操作できる人間はいないのだが、先ごろ開発した技術によりこうして紺野の私室からでも 
遠隔操作が可能になっていた。

さて。あとは…「あの子たちの『帰還』」を迎え入れるだけですかね。 

あと、少し。 
あと少しで、紺野の思い描く計画の下準備は全て整う。 
かつて巨大な電波塔にて実験した、拡散電波の威力。田中れいなから抽出した、共鳴能力。そして、「彼女」たち。 
それらの欠けたピースを嵌め込めば。それもじき、手に入る。 

「…さすがに無傷、というわけにもいかないんですね」 
「あはっ。さすがこんこん。部屋を訪ねる人間には敏感だねえ」 
「ここの人たちには、部屋のノックをするという習慣がないみたいですから」 

背後に感じる、強い気配。 
「黒翼の悪魔」は、体を壁に凭せ掛け、いかにも疲れましたといった表情を作っている。 

いつもはシルクのような艶を持った金髪は、埃と汗と血に塗れ、金色の光をくすませていた。 
戦闘服だよと嘯くチューブトップやミニスカートも、ところどころが破れ、裂かれている。それは彼女が先程まで 
繰り広げていた戦闘の激しさを暗に物語っていた。

「任務、ご苦労様です。あなたの働きがなければ、『天使』の身柄はあちら側に移されていたかもしれません」 
「だねえ。今頃裕ちゃんに詰められてるかも」 
「ええ。想像するだけで、生きた心地がしませんよ。研究に没頭できるのはありがたいですが、異空間の牢獄には実 
験器具を持ち込むわけにいきませんからね」 

冗談はさておき。 
そう言いつつ、回転椅子をモニターから反転させた。 
紺野の目に、「悪魔」の姿が入る。 

「それにしても、ずいぶんと満身創痍なんですね」 
「しょうがないじゃん。『キッズ』やら『エッグ』やらとの交戦、なっちとの戦い。つんくさんが総力戦って銘打ってただけのことはあるねえ、うん」 
「楽しそうでなにより」 
「できれば、『まともな状態の』なっちと戦いたかったんだけどね。あとまあ、愛ちゃんやガキさんと一緒に戦うってのも   新鮮だったかな」 
「ほう。もう、満足ですか?」 
「まっさかぁ。ごとーを満足させるには、まだまだ足りないねえ」 

言いながら、力こぶを作ってみせる「悪魔」。 

「空元気もそこまで出せるなら、心配無用のようですね」 
「確かに。早く部屋に帰ってさあ、モンハンの続きやりたいもん」 
「…それでは、締めの仕事をお願いしますか」 

そう来ると思ったよー、と肩を落としつつ。 
「黒翼の悪魔」からは、ある種の力が漲ってくる。

「『黒翼の悪魔』さんにお願いしたいのは」 
「わかってる。『あの子たち』の回収、でしょ」 
「やけに乗り気じゃないですか。何か、それ以外の目的があるみたいですね」 

是非聞かせてもらいたいものです、そう言う前に。 
悪魔の姿は、既に部屋から消えていた。 

気の早い人だ。 
まだゲートの再起動もしていないと言うのに。 

呆れつつも、紺野は「黒翼の悪魔」のために次の転送先を手元の端末装置に入力しはじめる。 
自分と、ダークネスの幹部たちは果たして「同じ夢」を見ているのだろうか。 
ある時の幹部会議での自分自身へのエクスキューズだ。 
答えはある意味イエスで、ある意味ノーだ。そもそも、彼女たちは紺野の本来の目的など、知る由もない。 

そして、目的の障害になる人間は悉く排除した。 
まずは、目的を達する手段に異を唱えそうな「詐術師」。 
さらに、紺野の目的をいずれは予知したであろう「不戦の守護者」。 
「赤の粛清」や「黒の粛清」の暴走と敗北は想定の外ではあったが、いなくなって困るかと言えばそうでもない。 

「金鴉」と「煙鏡」の敗北もすでに、紺野は把握していた。 
このような形の幕引きはさすがに紺野も考えてはいなかったが、高橋愛の意志と力を引き継ぎし若きリゾナンターた 
ちなら、乗り越えられない壁ではなかったのかもしれない。彼女たちにも、引き続き自分の演出する「舞台」に上が 
ってもらうつもりだ。となれば、役者に力が伴っている方が都合がいい。

つんくは。 
かつて紺野が師と仰いだ人物は。 
持てる才覚をフルに使い、自らが演出していた「舞台」を盛り上げようとしていたように、紺野の目に映っ 
ていた。 
だが、彼は気付いていなかった。彼もまた、「舞台」を構成するただのいち役者に過ぎなかったことに。だ 
から、志半ばで「舞台」を降りることになるのだ。今回のつんくの失態を、紺野はそう分析していた。 

だが、紺野は自分自身を舞台のいち役者。ゲーム盤の「駒」に過ぎないことを自覚していた。 
逆に言えば、「駒」だからできること。「駒」にしかできないことも、理解している。 

最良の一手(チェックメイト)は、すぐそこだ。


更新日時:2016/05/15(日) 12:57:31



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