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(121)126 『リゾナンター爻(シャオ)』80話

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くそ…最悪や。 

「煙鏡」は、煌びやかな内装のエレベーターに身を預け、顔を顰める。 

まさかうちの力が…あないなクソガキに見破られるなんて…ああ、胸糞悪ぅ! 

絶対の自信を誇っていた能力が。 
少女の、佐藤優樹のたった一言で覆されてしまう。 
あのまま撤退を決意していなかったら、優樹の強い想いはやがて仲間たちに伝わってしまっていた。 
あのタイミングの撤退は、最悪の中でも最良の手段でもあった。 

「煙鏡」の能力は、全ての脅威を寄せ付けない「鉄壁」でも。 
増してや、一目見ただけでその能力を行使できる「七色の鏡」でもない。 
彼女の能力の本質は、それこそ優樹が糾弾したように、「嘘」なのだ。

ただし、ただの「嘘」ではない。 
対象の精神に働きかけ、決して消えることのない足枷を嵌めることのできる「嘘」だ。 
言うなれば精神干渉の一種であり、新垣里沙が得意とする記憶の改竄に近いものではあるが。 
里沙の能力よりもずっと限定的で、そのかわりに比較にならない強力な効力を持つ。 

「嘘つき針鼠(ライアーヘッジホッグ)」、「煙鏡」は自らの能力を親しみを込めてそう呼んでいた。 
この能力の特筆すべき点は二つ。一つは、自らに悪感情を抱く人間にだけその効力を発揮するという点。も 
う一つはその感情が消えない限りは、その効力は半永久的に持続するという点だ。 

「煙鏡」はこの力を使い、自ら宙に浮遊しているように見せ、さらには相手の攻撃を全て、外させた。認識 
を誤魔化し、まるで見えない何かに攻撃を阻まれているのだと思い込ませながら。 

向けられる悪感情を操るのに「煙鏡」のパーソナリティが大いに役立っているのも、彼女が優秀な「嘘つき 
針鼠」となるまたとない条件であった。「煙鏡」の、子供のような外見とは裏腹の賢しい物言いは、対する 
相手を必ずと言っていいほど苛立たせる。この時点で既に針鼠の嘘はその身に突き刺さっていると言えよう。 

リゾナンター相手にも、その能力は遺憾なく発揮された。 
特に彼女のパートナーである「金鴉」が圧倒的な暴力によって、リゾナンターたちの悪感情と恐怖を引き出 
していたのも大きい。 

ただ、無敵の様に思える能力にももちろん、弱点はある。 
一つは、恐怖や悪感情すら抱かないバーサーカーのような状態の人間には針鼠の嘘は刺さらない。暴走状態 
に陥った鞘師里保に「煙鏡」が恐れおののいたのはこの理由からである。 
もう一つは、何かを信じて疑わないような、純粋な人物にもこの能力は効き辛い。どういう契機でそう思っ 
たかはわからないが、一旦「煙鏡」の能力自体を疑ってしまった優樹の心を再びねじ伏せることはできなかった。

うちの、うちの精神力さえ保てば!! 

歯軋りする思い、後悔。 
結局最後は、「金鴉」と共有していた精神エネルギーが半減していたことでガス欠を起こしてしまう。すな 
わち、その場にいる全員を騙し通せるほどの余力はなくなってしまっていた。非常用の閃光弾を携帯してい 
なければ、どうなっていたか。 
長年の監禁生活が微妙に影響したのかもしれない。リゾナンターとやる前に、ある程度の噛ませ犬とでもや 
り合うべきだったのかもしれない。 

とにかく、一時退避には成功した。 
戦闘を続行せずに速やかに撤退したのは正解。おそらく、優樹一人の意見ではあの場にいた全員の認識を覆 
すのは不可能だろう。しかも、意識を失っていたものもいた。期間を空けて襲撃すれば、間違いなく針鼠の 
嘘は効果を発揮するだろう。邪魔な優樹は、前もって仕留めればいいだけの話だ。 

エレベーターが、地上階に着いたことを知らせる電子音が聞こえる。 
垂直ではなく、斜めに軌道を持つこのエレベーターは、施設の中心からはほど遠い場所に入口を構えていた。 
リゾナンターたちが「煙鏡」たちを追跡時にこの場所を見つけられなかったことはもちろん、彼女たちに気 
づかれることなくこの地を去ることにも役立つ、というわけだ。 
元々はリヒトラウムの真のオーナーである堀内専用のエレベーターだという。お忍びで地下のロケット格納 
庫を訪れるには都合のいい移動手段、とも言えた。 

それにしても。あいつらを惑わす「偽の地図」くらいは後に残してもよかったかもな。 

自らが消え去った後に、思わせぶりな地図を残しておけば。 
もしかしたら逃走経路の地図だと勘違いし、地図の通りに動いてくれたかもしれない。 
ただ今回は、そこに罠を張るまでの余裕はなかった。まあいい、それは今度会った時にでも使ってやろう。 

そんなことを考えている間に。 
高級感溢れる扉が、音もなくゆっくりと開かれる。 
そこで、「煙鏡」は予想もしなかった人物と対面することとなった。

「あいぼん、お疲れ」 
「な、なっ!!」 

度肝を抜かれる、とはこのこと。 
手に入れた情報では、こんなところにいるはずのない人間だった。 

「ど、どないしたんや・・・ごっちん・・・」 

「黒翼の悪魔」。 
この地から遠く離れた「天使の檻」で、つんく率いる能力者集団と戦闘しているはずの悪魔が。 
目の前に、立っていた。 

「迎えに来たんだ」 

髪は乱れ、体中のあちこちに黒い血糊がこびり付いていたが。 
それでも「悪魔」は、満面の笑みを「煙鏡」に向けていた。


投稿日時:2016/05/16(月) 13:45:06


作者コメント 

加護ちゃんが消える際に地図を残すというのはかなしみ戦隊のパロディですw 



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