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(135)304 聖、許しませんわ 第四話「ゴールドフィンガー」(自主規制ver)

「ふぅ、二人ともご苦労様」

その日、リゾナンターのリーダー譜久村聖は市内最大の総合病院に仕掛けられた爆弾の解体作業を行っていた
本来なら警察や自衛隊の爆弾処理班が行うべき作業をなぜ、聖が担っていたのか。
その理由はその爆弾の特異性にあった

“ジャガーノート”と名乗る犯人の作った爆弾は、これまで幾人もの犠牲者を出してきた。
そしてその犠牲者の割合は一般人よりも処理に当たった警察や自衛隊関係者が圧倒的に多いのだ
液体窒素で起爆装置を凍らせ安全な場所へ移動させるという爆弾処理の基本中の基本をはじめとしたあらゆる措置を想定した何重ものトラップが解体処理を阻んできたのだ
まるで爆破よりも処理に当たり人間を狙っているかのような卑劣な犯人に業を煮やした当局がリゾナンターに今回の処理を依頼してきたのだ

譜久村聖は【接触感応】というチカラを持つ能力者だ
その能力は物質に残った残留思念を読むというものだ
爆弾にどんなトラップが施されているか、リーディングしながら解体処理を行っていけば卑劣な犯人の意図を挫くことが出来るという期待から今回の任務は依頼された
そして聖はここまでその期待に十分に応えている
勿論聖一人の力ではなく、リゾナンターの仲間の協力も大きかった

光に反応する光電地への対策としては、【変身】による白狼の眼を持つ工藤遥による暗視
音センサー対策は振動を統べる能力者、佐藤優樹が行い、静電気対策としてはなんとなく良さげという理由で野中美希が【空気調律】によって室内の湿度をコントロール
各々のリゾナンターとの感覚を聖と共有する役目は【五感支配】の飯窪春菜が担った
一つの層をクリアするまでに同じ傾向のトラップが幾度も出現したかと思うと、唐突に別のトラップが出現する
まさに爆弾処理班殺しの爆弾に残る犯人の歪んだ思念に飲み込まれそうになりながら行ってきた解体作業もあと一息で終わる

最後の配電盤を前に、その部屋に残っているのは聖と春菜、遥の三人だけだ。

「あとこのボタンを押せば爆弾は止まるから」
「じゃさっさと押しちゃいましょうよ」

遥の言葉に微笑みで応えた聖。

「でもまあ万が一、てっていうが億が一ぐらいの可能性を考えて、このボタンは聖が時間ギリギリまで待って一人で押すから」

何気ない聖の言葉に遥は不穏なものを感じたようだが、春菜がその不安を打ち消すような物腰で室外に誘った

「避難の誘導も大事な仕事だからねっ」

聖は二人の背中を見送ると座禅をし、深呼吸を行い呼吸と気持ちを整える

「譜久村さん、そんなにマズイ事態なんですか」

一人戻ってきた春菜の言葉に聖は苦笑する

「もー最悪だよ」

最後のスイッチを押せば爆発は起こらない
そのこと自体は正しい
しかしその最後のスイッチに問題があった

「押し過ぎても押さな過ぎても爆発してしまう。ほんとミリ単位かさらに微妙な精密さで制御できないとドカーンだね」

石田亜佑美のイリュージョナリービーストによる遠隔作業、小田さくらの【時間編纂】によるバックアップ

「いろいろ考えたけどどれも帯に短し襷に長しでねえ」

逃げるという選択肢もあるがそれは出来ない
病院という場所柄、避難したくてもできない人もいる
医療装置の助けなしに救命が出来ない人もいる
だから逃げないと話す聖を春菜は見ていた

「だから避難可能なが避難できて、何か名案が思い付くかもしれないギリギリまで待って、聖がボタンを押す」
「私はご一緒しませんよ」

危険な最前線に聖を残していくという春菜
しかし聖はその言葉を当然のように受け止めていた

「聖、はるなんのそういうところが好きだよ。これがもしもえりぽんがいたらと思うとね」

譜久村聖の莫逆の友、生田衣梨奈がこの場にいればとんでもない悲嘆場が繰り広げられたであろうことは間違いない
自分もこの場に残ると言い出すか、あるいは自分一人でこの場に残り、聖を救おうとするか

「まだえりぽんよりも聖の方がきっちりボタンを押せる確率は高いから」
「ボタンといえば譜久村さんですから」
「そうそう」

時限装置のリミットが気になるのかスマホで時間を確認した聖は春菜に退去を促した

「もしもの時、リゾナンターのことをよろしくね」

聖がいなくなったら。
衣梨奈はリゾナンターを去るかもしれない
あるいは聖の意志を引き継ぎ、リーダーに名乗りを上げるかもしれない
聖のいなくなった事実に打ちのめされ、自分の足で立ち上がれない時が続くかもしれない

「まあどんな状況になってもはるなんに頼んどけばたいていのことは大丈夫だと思うからさ」
「譜久村さん、やっぱり私が…」
「気持ちは嬉しいけど、それはダメ」

リーダーは時に危険な役目をメンバーに担わせなければならない時があった
自分の身を安全圏に置きながら、冷徹な命令を下さなければならない時があった
心にもない厳しい言葉で後輩を正さねばならない時もあった
それは聖の性格からすれば辛いことでもあったが、そうしなければ先輩から引き継いできたものがダメになってしまうという思いで必死に務めてきた

「このボタンを押して爆発を止めるのは聖の役目。もしもそれが失敗した時にみんなの動揺を収めてまとめるのははるなんの役目」
「わかってます。でも、こんな卑劣なやり方で私たちが築いてきたものが壊されてしまうかもしれないのは悔しいです」

春菜の目が潤んでいるようだったが、聖にはよく見えなかった。
それは聖の目にも涙が湛えられているから。

「ホント、ミリ単位、ミクロン単位で指先を動かせるようなそんな職人さんがいれば助かるんだけど」

仮にそんな人間がいたとしても、危険な役目を負わせるような、そんな真似を聖がする筈も無い
わかりきったことを口にするのは諦めなのか、恨みからくる繰り言なのか

「やあ、みんな元気かな。お久しぶり、ゴッドフィンガータカさんだよ」

突如としてその現場に現れたのは茶髪に日焼けした肌、金の掛かっていそうな上下を着た男
その姿を見た聖の第一印象はチャラいお兄さんだったが、顔に刻まれた皺を見ると中年かあるいは初老に差し掛かっているようにも見える
とにかく心の中で注意のイエローシグナルが激しく点灯している

「ミリ単位、ミクロン単位で指が動かせる職人だって。だったら俺が適任だな。見てよほら九千人の女に潮を吹かせまくったこの俺の妙技を奥さんも味わってみるかい」

そう言って男は左掌を手首に添えた右の指先を細動させた
空気を振動させているのか、指先周辺は歪んで見える

「あの、せっかくのご申し出なのですが、ここはとても危険です。それと私のこと奥さんと呼ばれましたが、まだ二十ですし結婚もしてません」
「ふ~なんてこった。あのさ君、有名になりたくないかい。月に二日間撮影をこなしてキャンペーンで一週間ぐらい全国のビデオ屋さんを回って。大丈夫、君なら絶対専属契約取れるから」
「あっあなたはあのマッサージ屋さん」
「ああちょうど良かった。飯窪ちゃん、いやはるなんって呼んでもいい。この間はるなんがうちの店に来た時に漫画を忘れてったでしょ。それを届けに来たら大変なことになってるみたいだし」

ほんの数分前まで春菜との惜別の悲しみの涙で濡れていた聖の瞳が今度は怒りの炎で燃えている

「ふ~ん。はるないえ飯窪さんはこんな人とお付き合いがあるんだ。ふ~んマッサージ屋さんね」
「ちょ誤解です。私は野中ちゃんと待ち合わせた時にたまたま街頭アンケートを頼まれてですね」
「何ですって。野中ちゃんをこんないかがわしい人と会わせたですって」
「おいおいいかがわしいって失礼だな。それは俺は大人のビデオで男優をやってたけどそのことを恥ずかしいだなんて、
ふごぉっ」

お黙りなさいという聖の張り手を食らったタカさんはその衝撃に顔を歪めながら、いいねいいね王道系で頭打ちになったらそっち系にも進出できるいいねと謎の呪文を呟く

「あなたは私より年上ですから、プライベートでどんなお付き合いがあってもそれに口出しするつもりはありません。でも未成年の子たちをいかがわしい世界に引き込むというなら、聖、許せませんわ」
「だから誤解ですって~」
「おいおいいかがわしいって失礼だな」

聖、春菜、タカ三人のあまりに不毛な堂々巡りの問答に呆れ返ったのか、爆弾も起爆を止めてしまった
よって爆弾処理のミッション成功

(タAカ)<「はははっ。ケンカはいけないな。そんな時は俺のゴールドフィンガーで二の腕をこう軽く撫でただけで」


ノノ∮‘ _l‘)<ああぁっふっふぅ!
 ノハ*゚ ゥ ゚)<はう!


投稿日時:2016/11/22(火) 17:47:42.21



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