(106)215『秋氷』3

今度は誘拐!?
ありえへん!
なんでウチがこんな目に遭わなあかんねん!
めんこくて可憐で、か弱いフツーの美少女やで!?
超能力なんて漫画みたいなモン、持ってる訳ないやろー!

──シ+念=カナ ──〓〓〓キネシス

ヒューン

「なんだ?」

──透視──クレヤボンス

おっさんBが、ウチより後ろの方を見とるみたい
なんかあると見せかけて、ウチが振り返った隙に捕まえる気かいな

「あかん避けろ!」
「なんだよ? 何を避けんね

ゴーンッ!
ドターン!

おっさんAの顔にドラム缶が命中し、気絶して倒れた

「おい! しっかりせえっ!」

あのドラム缶、近所の工場のやろか?
どうやって飛んできたんやろ

「このドラム缶、中身ちょっと入っとるやないか……こら効くわ」

相手は1人
物を動かせないおっさんBだけ
これなら逃げられるかもしれへん!

振り返って全速力で走る

「待たんかいっ! 俺の仲間にここまでの事をして、タダで帰れると思ってんのか!? あぁ!?」

おっかない!
メッチャおっかない!
あのおっさんBこそ、ホンマにアカンやつや!

「ハァ、ハァ……もう、走れん……どっか隠れて様子を見るか」

大きな樹に身を隠す

さっきからありえん事ばっかりや
ヤバいおっさん達に追われて、勝手に樹が倒れたり飛んで来たり
挙句にはウチが超能力が使えるとか言って誘拐しようとしたり
頭がパンクしそうや

「ハァ……ハァ……やっと、追いついたわ……手間かけさせやがって!」

ザ、ザ、ザ、ザ

後ろから草を踏む音が聴こえる
段々と近づいて来る

気のせいやろか?
真っ直ぐこっちに来てへんか?

「隠れても無駄や。俺は〝透視〟能力者や。そん位の樹なら透けて見えるで」

嘘やろ!?
ウチやなくて、おっさんBの方こそ超能力が使えるんやんか!
て言うか、おっさんAも超能力を使ってたん?

「大人しくしいや」

腕を掴まれた

バチッ

「痛っ!」
「静電気か? 驚かすなや」

確かに、今日の服は組み合わせを間違えてるわ
逃げ回って動いとる間に溜まっとったんやろ
って、今はどうでもええわ!

掴まれた腕を振りほどこうとするけど、全然ビクともせえへん

「さあ、一緒に来てもらうで」
「嫌や嫌や嫌や! 絶対に嫌やーっ!」

──シ+念=カナ ──〓〓〓キネシス

ボッ!

「熱っ!?」

ウチの脚から、火が出た

「お前、パイロキネシスの能力者か!」

火から逃げる様におっさんが離れた
その間も、ウチの脚からは火が出ている

「パイロ……キネシス?」
「いや待てよ……さっき杉の樹が動いたんはどういうこっちゃ? まさか、サイコキネシスも使えるんか!?」

おっさんがなんか言うてるけど
ウチはそれどころやあらへん

自分の脚から火が出てる
ウチの脚、おかしくなってしもたん?

「珍しい能力者、ますます連れてかなあかんな」

嫌や
嫌や
嫌や

なんやねん!
ウチが何したって言うんや!

ボワッ!

「なっ!? アホ! 待てや! それ以上はやめんかい! 森が燃えてまう! 自殺行為や!」
「全部、あんたらのせいや……あんたらのせいで、ウチの脚はおかしくなってもうたんや!」

ウチの脚から出た火が、辺りの草木を踏み荒らす様に広がっていく
緑だった景色は、あっという間に暗闇の様な黒に染まっていった

そして
ウチの心も
深く
黒い
闇の様に
染まり始めていた

春水の人生は、今ここから変わっていった


投稿日時:2015/07/05(日) 20:36:07.77



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