(106)443『春水』2

「あんたは!」

忘れもしない
春水の脚がおかしくなった日
あの日に追いかけて来たおっさん2人の内の1人

服こそ違うけど、背格好はあの時のおっさんそのままや

「あんたの……あんたのせいで、春水の脚は!」

春水はおっさん目指して走り出す
それと同時に、傀儡師の蹴りが春水の自慢の福耳を掠めた

「うわっ!」

慌てて後ろに下がる

「落ち着け。あいつは本物じゃない」
「……なんやって?」
「変身して見た目が変わっただけさ。本物は別にいる」

そんな超能力もあるんや
って言うか

「おっさんが黒タイツとか、キモイで」
「うるさいよ! のんだって嫌なんだよ!」

声も変わってへん
本当に見た目だけなんや


「それより、普通は違う驚き方をするはずだ。目の前で人間が別の人間の姿に変わったらさ。つまり」

……なるほど

「ウチが超能力の存在を知ってる、って言いたいんか」
「当たり」

春水にカマをかけたんかいな
この傀儡師って人、蹴りだけやなくて頭もキレるみたいやん

「君の超能力、あたしらに教えてくれないかな。尾形春水ちゃん?」
「なんやねん……春水の名前、知っとるやんか」
「ああ。それに、ここがどこかも知っている」

傀儡師が足元を指して言った

ここは、春水の家の近くの森の中
けど、森の一部がゴッソリ消えた様になってる

「去年の秋頃、火災により森林の一部が焼失。不法投棄されたドラム缶に残っていた燃料に引火した事が原因とみて、
現在も捜査中。と言うのが世間の認識だ」
「……それが春水と関係あるんか?」
「君が森林火災の原因」

そこまで知っとるんか
この人ら、何者なんや

「君は、火を操る能力者なんだろう?」
「……ノーコメントや」


〝火を操る能力者〟
間違ってないけど、正解とも言えん……気がする

「君は、あたしらの間じゃ〝火脚〟って呼ばれてる」

傀儡師がゆっくり近付いて来る
春水は距離を保つ様に後ろに下がる

「なかなかカッコ良え名前、付けてくれてるやん」
「本当の事が知りたい。君の能力の全てを」
「お断りや」

春水かて、実際は知らん事の方が多い

脚から火が出たんは間違いない
けど、樹やドラム缶が飛んで来たのも春水のせいやったんかは今でもわからん

自分でも使いこなせてへん超能力の事が知られて、周りの友達とかは怖がって春水に近寄って来んくなった

だから、秘密がバレる事に怯えて過ごした
口外させん様に脅したりもした
でも、結局なんも解決してへん

春水の人生は、あの日のこの場所で狂ってしもた
もう嫌や──

「本当は……こんな力を使うの嫌なんや!」

──シ+念=カナ ──〓〓〓キネシス


投稿日時:2015/07/19(日) 01:52:25.93




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