(124)350『ズッキの決意(仮)タイトル募集中。。。』2
Dr.マルシェとの会談の場からしばらくは動けなかった。
後悔と憤りが全身を駆け巡り、動くことさえも出来なかった。
特に経験のない私をかくまってくれたみんな。
まだみんなのことをよく知っているとはいいがたいけどそれでも約1年一緒に過ごしてきた仲間。
そんなみんなのことを裏切ることは出来ない。
それが大好きなお父さんの少しばかりの延命のためであっても。
そう少しばかりの延命なんだ。
それは実験が終わるまで、あるいは私が相手にとって有用な時まで。
相手にとって私が有用でなくなれば、実験途中であれお父さんは殺される。
留守にすることも多かったけど帰ってきたら大きな手で頭を撫でてくれたお父さん。
私が笑うと「香音の笑顔はお父さんの何よりの宝物だよ」そう言ってまた頭を撫でてくれたお父さん。
私がお腹をすかせるとすぐに美味しいものを作ってくれたお父さん。
お父さん、お父さん、お父さん、、お父さん、、、、、お父さん、、、、、、、、、、、、、、、、、。
お父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さん
お父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さん
お父、、、、、、、さ、ん
鈴木は迷っていた。
理性ではとても危険だと分かっていたし、しちゃいけないことだとわかっていた。
けれど大切な肉親が生きていて、自分の返答次第で少しでも生き延びることが出来る。
弱冠14歳の―――父親の大きな愛で育てられた純粋無垢な少女には重すぎる課題だった。
心を落ち着けて帰宅してからも鈴木の苦悩は他のメンバーにありありと伝わった。
一緒に生活していると隠したくても隠せない。
けれど、鈴木は隠そうとしている。そのことをメンバーは尊重した。
その日鈴木は一睡もできなかった。
考えなければいけないのは今の生活を守ることのはずなのに、考えてしまうのは父親と過ごした日々。
翌日鈴木はいつも以上に鞘師と行動を共にした。
Dr.マルシェに会わないように、父親に会って流されないように。
今の生活を守るために。
本日最後の授業。これが終わり鞘師と共に下校してリゾナントに行けばとりあえずは大丈夫だ。
鈴木はそう考えていた。
自分自身が会いに行かない以上連れていかれるとしたら学校の中あるいは登下校中。
リゾナントにはメンバーがたくさんいるから、研究者一人にそう簡単には手出しは出来ない。
そう思っていた。
けれどダークネスはDr.マルシェだけではない。
そのことを鈴木は忘れていた。
授業中、睡魔のようなものがいきなりやってきた。
昨日は眠れなかったから・・鈴木はそう考えながら睡魔に身を委ねた。
「おはよう」
ドスのある独特なイントネーション。
知らない女性の声。
鈴木はまどろみながらも今の声の主を考えた。
先生にこんな人はいない。というか、ここは教室じゃない・・・?
まわりに教室らしい喧騒がない。保健室のような感じとも違う。
違う。鈴木はすぐに気付いた。今近くで声をかけた女性は能力者。
それもすごく強い。目を閉じているのに感じる。見える。
鈴木はがばっと飛び起きた。
「おはようございます」
なぜだか条件反射であいさつを返す。
そしてまわりの状況を把握しようとするが、出来ない。
女性から目を離すことが出来ない。
彼女がこうしろと言えばそのままそうしなければならないように圧倒的王者感。
能力の差がありありと感じられ、その違いに逃げ出したいのに動けない恐怖。
鈴木は怯えた。今までに強いと思う人にはたくさん会ったし、恐怖を感じたこともあった。
けれどここまでのものはなかった。
「元気やな」
そう言って女性はふっと笑った。
その笑顔は少し悲しそうでとても優しげで敵だとは思えない表情だった。
けれど・・・鈴木は半ば確信する。
この人がダークネスのリーダーだと。
「昨日紺野に会ったやろ?やから話は分かってるわな?」
ただの問いかけで口調も普通なのになぜか否定することは許されない空気だった。
鈴木はうなずいた。
「紺野の話だけじゃわからんやろうから、うちがもうちょい説明するな。
あんたのお父さんは今うちとこの研究所にいる。
それからいろいろあるんやけど、まぁ飛ばせばええわ。
肝心のとこはな、鈴木」
説明すると言いながらいきなり飛ばした。きちんと説明できる人はダークネスにはいないのか。
そう考えていた時、急に名前を呼ばれて背筋が伸びる。
「はい!」
敵相手に礼儀正しくしても意味がないのに鈴木は元気よく返事をする。
その声の大きさに少しばかり女性は驚き、また微笑む。
そんなに優しい顔をするな、と鈴木は思う。
敵なら敵らしく悪逆非道にすごせ、と。
「うちはな、あんたらを滅ぼしたくはない。滅ぼすというかケガだってさせたくない。
ケガだってさせたくないし、辛い思いもさせたくない。なんでかわかるか?」
長い間、お互いに戦ってきたはずなのに敵のリーダーはそれを根底から覆す発言をする。
鈴木はただかぶりを振った。
「うちらはもともと仲間なんや。うちらはもともと一つのグループとしてあったんや。
それがいろいろあって別れた。まぁ、別れるのはしゃあないわな。人それぞれ考えることは違うからな。
けどな、だからといって仲間を殺したくなったりケガさせたいとは思わん。
出来るならまた仲良くしたいと思う、それが仲間やろ?」
初耳だった。ダークネスとリゾナンターがもとは・・・仲間?
けれど女性にうそをついてる雰囲気は微塵もなく、いたって真剣なまなざしだった。
しかし信じられない。仲間だったのならなぜ戦いあうのか。
鈴木は呆然としたまま、答えなかった。
「・・信じられんか。しょうがないか」
女性はそう言って寂しく笑った。
そして語りだす。ダークネスの創成について。
「昔な、たぶんあんたが生まれる前か生まれて少しくらいの時にな、能力者狩りが行われてん。
それは当局が能力者を人体実験して軍事力が乏しいこの国を守る一つの力にするために。
けどな、能力者だからって人体実験されたらかなわんわな。そんでみんな逃げ回っていた。
捕まりそうだった時に『ASAYAN』した明日香や圭織・・・まぁ、名前言うてもわからんやろうけど。
とにかくいろんな子らが『ASAYAN』して集まってん。今のリゾナントみたいに。
あんたらが言ってる『共鳴』、うちらは『ASAYAN』って呼んどる。
まったく一緒ではないけど、似たようなもんやと思ってればええわ。
集まった子らはみんながみんな、自分の身を守ることが出来る子ではなかった。
能力いうてもいろんなもんがあるからな。これもあんたらと一緒やな。
だから強くなるしかなかった」
そう言って女性は遠くを見る。
「いろんな子らが来て何人かはその子らの理由で去っていった。
けど、守る場所としてダークネスはずっとあったんや。
ダークネスがダークネスなのはな、闇に隠れてでも生き延びたい、その表れなんや。
せやけど、時代は変わるし人も変わるわな。人間いつまでも闇にはおれんってことやな。
あんたもわかるやろ?いつまでも逃げて隠れたって悲しい思いをする人間が増えるだけや。
あんたんとこのお父さんやあんたみたいに」
女性は力強く鈴木を見る。
「あんたんとこのお父さんはな、能力について調べとった。娘を守るために何ができるか一生懸命さぐっとった。けど、当局は能力の存在を表沙汰にはしたくない、今も昔も。
秘密裏に自分たちの力として脅威にしたいんや。だからあんたのお父さんが邪魔になったんや。
けどな、鈴木。おかしいやろこんな世界。
うちらの能力はただ誰かを傷つけるためのもんか?
戦争やそんなくさったもんのために使わなあかん能力か?
違うやろ。うちらは能力を表に出したい。そのうえで普通の人たちが認めてくれるようになってほしい。
ただそれだけなんや。そうしたらあんたやあんたのお父さんみたいな人はでん。
少々迫害にあっても命を奪われたりはせん。迫害にあっても守ってくれる場所はあるんや。
だからな、鈴木。そんなうちらの夢に手を貸してくれんか?」
女性は熱弁した。その想いは心からの言葉のように聞こえた。
鈴木も感化されそうになった。
「そちらの立場は分かりました。
けれど、あなたが傷つけたくないと思っているのならどうして私たちは戦うんですか?高橋さんたちはどうしてあなたのもとではなくリゾンナントを作ったんですか?」
そう問いかける鈴木の声は震えていた。
「そっちは能力を表に出したくはないいんやろ?
ずーっと闇に溶け込んでなぁなぁに過ごしたいんやろ?
だからうちらが表に出す準備を邪魔するんじゃないんか?
高橋はな、表に出すときに出る被害は尋常じゃないと抗議してきた。
そして表に出したあとにうまくいく保証もないと。
だから今のメンバーたちを守るべきやと。
高橋の言うことも分かるけど、けど甘いわな。
表に出すときに被害が出るのはしょうがない。
表に出さなくたってリゾナントに人が集まるっていうことは何らかの辛い思いや命の犠牲があったからのはずや。
家族が犠牲になったのは、鈴木あんただけじゃないやろ?
それがこの先も『能力者』っていうだけで増えるんや。やからそれを食い止めなあかん。
そのために今つらい思いしてもしゃあないよ。
表に出した時にうまくいく保証はない。けどそのためにいろいろ準備するんやないか?
それがあんたらの目にどう映ってるかはわからんけど、あんたらはそれを邪魔してるんやで。
同じ能力者で起源も一緒なんや。うちらは仲間や。やからうちはあんたらは傷つけとうない。
けど邪魔は困る。だから死なん程度に痛めつけとる。
せやけどまどろっこしいねん。それにさっきも言ったけど傷つけたくないのに痛めつけるんもしんどい。
やからな、鈴木。あんたに少し情報を流してほしい。
うちらがあんたらと大きい対決をしなくて済むように。
うちらとあんたらはゆくゆくは一緒の道を進めるように。
なぁ、頼まれへんか?」
女性の語る言葉は誠実で愛に満ちていた。
能力者と一般市民との共存。
14歳の鈴木は単純に「カッケ―」と思ってしまった。
投稿日時:2016/07/05(火) 16:02:46.09