(134)166 『Chelsy』42
「君が見つけた絨毯の光だが実に興味深いものだった」
「なんだったんでしょうか?」
「あれはユリの花粉だ」
「・・・ユリの花、、、ですか?」
班長は机の上に植物図鑑を広げて見せた
「それも特別珍しいタイプのユリだ。日本で流通していることはほとんどないそうだ」
「でもそれがどうして、居場所の特定につながったんですか?」
「このユリはだね、本当に特別で取り扱っている生花店が都内に数店しかないんだ
その店でもなかなか入荷できないらしい。それを知ったときは驚いたよ
そして、花を咲かす期間がとても短く、三日と持たないとのことだ」
図鑑に載っているその花は、白く儚く華麗な美しかった
儚く散るから美しいのかもしれないが、切なく感じてしまう
「そして、このユリの花の花粉がシルベチカのドレスにも付着していたんだ」
「!!」
「これは偶然だと到底思えないだろう。したがって、シルベチカはウルを飲まされたのだろう
チェルシー、君の直感には心底驚かされるよ」
やはり、シルベチカが飲んだあの薬はウルだったのだ
脳裏によぎる、歪んだ笑顔と涙のシルベチカ。つらい思いをしたんだね
「それでこれからチェルシー、君はどうするつもりなんだい?」
そんなこと決まっている!!
「ウルを世間に流行らせるわけにはいかないです!班長、お願いです、私に向かわせてください」
「・・・君からその言葉が出なくとも、向かわせるつもりだった
ただ、気をつけてくれよ、チェルシー。なにが待っているのかわからないからな」
危険なのは百も承知だ
「しかし、今回は君だけでは行かせない。私とウルについて調査をさせていた調査員も同行させる」
「班長が自ら向かわれるんですか?」
「ああ、安心したまえ。こう見えてもまだまだ若いもんには負けんよ。
もちろん、装備は整えさせてもらうから、まずは君のパートナーのもとへ行こう」
「ありがとう、ジョニー」
ジョニーが防弾チョッキを班長に渡しながら、微笑んだ
「班長が現場に赴くなんて珍しいですね。それほど覚悟がある、ということですね」
「ああ、それにこの事件をチェルシーだけに任せるわけにもいかないだろう
保護者として誰かが付き添う必要があるだろう」
「・・・そうですね。我々の動きがそのボスとやらに筒抜けになっている可能性も否定しきれませんからね」
付き添いの諜報員たちも自分たちの拳銃の最終整備に暇なく励んでいる
グローブの感触を確かめながら班長は私達に目を向けて、優しく、かつ力強く発破をかける
「いいか、この作戦は絶対に成功させなくてはならない
危険な薬、ウルを世間に蔓延させることを防ぐ瀬戸際と思って間違いない
我々の行動が世界を救うことにもなるのだから、気をひきしめていくぞ」
「はい」「はい」「はい」
「ジョニーはいつも通りにチェルシーをバックアップしていてくれ」
「了解。この部屋でサポートさせてもらいますよ。これ、通信機です。使い方わかります?」
「ああ、大丈夫だ」
「チェルシーのスーツに内蔵してあるから持つ必要はないかと思いますが、一応ですよ
チェルシー、試してくれるかな?マイクは左手首に付けておいたから、そこに語り掛けてくれかい?」
「ジョニー、ジョニー、聴こえる?」
手に持ったスピーカーから私の声が流れた
「それでは行ってくるよ」
班長が大型の拳銃をホルダーにしまうと、部下の二人が先に部屋を出た
きっと先に乗用車を準備しているのであろう
私も決戦へと向かわんと後ろを向いたが、ジョニーが私の名前を呼んだ
「なに?ジョニー?」
「・・・一つお願いがあるんだ、チェルシー。僕のことを好きだと言ってくれないか?」
突然のことで驚いたが、案外すんなりとその言葉はでた
「・・・好きよ、ジョニー。だから、大丈夫よ、心配しないで」 (Chelsy
投稿日時:2016/11/02(水) 23:42:08.76
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