(134)76 次回予告・リゾナンター’16『糸島Distance』

「矢島は馬鹿だから懐に飛び込んだ窮鳥を放り出すことなんてできない」
「待って下さい福田さん、何て言ったんですか」
「でもセルシウスの庇護下に入ったとしてもそれはそれで問題が出てくる。そこであんたの出番ってわけ」
「そんなこと、私聞きたくありません」

展示されているアザラシをきっかけに福田花音の記憶が蘇った様子の和田彩花を確認しながら田村芽実は能力を解除した

【劇団田村】
組織のラボで施された苛烈な実験の苦しみから逃れるために演じた一人芝居から生まれた能力
実在であれ架空であれ芽実が演じることでそこに新たなる人格や魂が生まれる
第三者から見れば、【催眠】や【擬態】の一種に過ぎないかもしれないが、設定上の身体能力や異能の一部も顕現するに至ってはそれは特別な能力といえる
彩花の手で不帰の島から救い出された時からこの能力を使い続けていた
いや、使わされ続けていたのだ
稀代の策士、福田花音の指示によって

「私の【革命】は正直、格闘戦向きじゃない。セルシウスの萩原、岡井クラスならまだ何とかなるけど、大将の矢島舞美に出てこられたら正直ヤバいと思う」
「だったら朱莉を福田さんの護衛に」
「悪企みをする人間が自分の身が一番大事になったら策が通用しなくなる。私が徒手空拳で臨んではじめてその策で人は踊ってくれる」
「そんなことわかりません」
「わかれよ、つうかあんたぐらいはわかってくれよ」

花音の当初の構想では組織との正面からの対決は回避する筈だった
リゾナンターを前面に押し立て、スマイレージはその陰で花よりも実を取るというプランは脆くも崩れ去った

「まさか中澤が矢口、市井はともかく保田を捨て駒にするなんて思わなかった。ま、それが出来るからあの人はトップなんだろうけど」
「だったら中澤さんを取れば…」
「それが出来るのならそうするけどさ。でもあの年増にはなんか裏がある。っていうか隠していることがある。目的も能力も」

着々と組織のプランを邁進する一方で、勢力の均衡が崩れないよう配慮する中澤のやり方を利用するというのが花音の次善の策だった

「彩花の存在感が大きくなれば大きくなるほどうちらには手を出しにくくなる。でも大きくなりすぎると間引きに来る。だからあんたには組織に内通してもらう」

スマイレージの勢力を拡大する一方で、その実情を組織サイドに流すことで相手が抱く警戒感を削ぐ
いずれ対決は避けられないが、その際の勝算を上げる最善の策の一端を芽実は担わされた

「お願いがあります。私に福田さんの【革命】を使ってくれませんか。そうじゃないと辛すぎて…」
「それは出来ないね。私は友達や仲間には自分の能力は使わないというのが信条だから」
「…嘘つき」

あの日、花音からのメールでその時が来たことを悟った芽実は、彩花や他の仲間から花音に関する記憶が消失したことを確認して組織とコンタクトした
中澤の周辺に直接ではなく、紺野という名の女科学者に対してだ
それからどう事態が動いたのか全容は判らないが、スマイレージはセルシウスの庇護下に入りその後方支援の任務を担ってきた
だがそうして福田花音が自分の死を材料にしてまでもたらした仮初めの平和は破られようとしている

次回、リゾナンター’16『糸島Distance』

【劇団田村】を解除したことで、彩花たちが認識している田村芽実の魂は消えた
これまででは考えられないぐらい不自然に離れていく自分と彩花たちとの距離
でもそれは心の距離ではないと芽実は思っている
やがて始まる激戦でスマイレージ、否アンジュルムを勝利に導くべく福田花音の書いた脚本を演じ切る


投稿日時:2016/10/31(月) 08:30:09.66





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