(136)117 次回予告・リゾナンター'14 『モーニングコーヒー』

第134話に投下した『愛しく苦しいこの夜に』からの流れです


窓も扉も無い部屋の中に座り込む二人の女
一人は官僚風のスーツを着こなし、一人は黒いフード付きの外套を被った魔道士風のいでたち
電池式のランタンの光の元で、魔道士風の女は広げた地図の上にかざした振り子でダウジングを行っている

「反応が消えたな」
「そんなことがあるのか」
「藤本美貴はイレギュラーな形の魔女だ。だから私の探査からも逃れられるのかもしれないが…」
「鞘師の方はどうや」
「鞘師里保が藤本の魔術の侵食を受けたことは紛れもない事実だ。しかし先代の魔女の藤本が生きている限り、魔女が継承されることは無い」
「ということは藤本を何とかせなあかんのか」

ダウジング用の振り子を懐中に仕舞った魔道士の顔に嘲笑が浮かぶ

「藤本を滅するよりも懐柔する方が楽だと思うが」
「あいつの気紛れでこっちの行程が掻き回されるのはもう御免や」
「行程というが、この世界の行程は他のどの世界と比べても歪んでいるぞ。本来ならこの時点で喫茶店側に加わっているべき、飯窪以下の四名がまだ接触さえしていないではないか」
「その件については直近に段階を進めることになっている。まずは石田亜佑美からな」
「それも結局、あの科学者が指揮を執るのだろう。前にも言ったがあいつを信用し過ぎては身の破滅だぞ。現に私の世界では私はあいつの傀儡扱いだった」
「紺野が私への忠誠心ではなく自分の思惑で動いていることはわかっている。だからこそ信用できるんや」

魔道士がフードを脱ぐと、その顔は官僚風の女と瓜二つだった
気の強そうな顔、しかし両者に決定的な違いがあった
魔道士の顔には毒々しいタトーが施されていた

「やつもまた妄執に囚われた女だということは知っている。しかし、まあお前がそう言うならそういうことにしておくさ」
「不戦の女神の代替えとなり得る存在も囲い込んだ」
「彼女なら現在何が起こっているか、これから何が起こるかも視えているのだろう」
「ああ、せやけどあえて視えてないように振る舞ってるみたいやな。それが自分の仲間の為になると思ってるんやろうな」
「健気なことだ」

魔道士は大きく溜息を吐いてみせた

「ならば天使はどうするのだ。幸いにも天使の遺伝子を保有する者には恵まれているようだが」
「どの娘も帯に短し、襷に長しって感じやな。とりあえずそのうちの一人を藤本の討伐に向かわせるつもりや」
「殺されるぞ」
「もしそうなったらそこまでの命やということや」
「…変わったな。私でもあるお前にこんなことを言うのはおかしいことだが、ここ最近のお前は変わった」
「以前のうちやったら極力、死人が出るのは避けたやろうな。でも最近悟ったんよ」

スーツの女は携帯用の水筒から二つの紙コップに湯気の立つ液体を注いだ

「人間は死ぬものや。生まれて生きて死んでゆく。突き詰めて言えば死ぬために生きていると言ってええ」
「だから天使の候補者が死んでもいい、と」
「いやそこまでは。ただ大切なものを守って死んでゆくなら、それは尊重すべきとちゃうかな」
「それを言うならあいつも。私たちが取り戻そうとしているあいつだって」
「違うやろ。あいつの死は…」

スーツの女は魔道士風の女に紙コップを手渡した

「美味いな」
「なんの。安物のブレンドコーヒーや」

コーヒーを一気に飲み干した二人は立ち上がり、向かい合う

「いずれにせよ私の世界は時間を停止し、もう更新されることも無い。お前の力になろう」
「頼りにしてるで」

切り裂かれた空間に姿を消す、二人の中澤裕子

次回、モーニング戦隊リゾナンター’14 「モーニングコーヒー」 これは天使が失われるまでの記録


投稿日時:2016/11/29(火) 17:49:38.71







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