(122)152 「新たな部屋主」2
手渡された紙袋の中身を見て、二人はぎょっとする。
白地の丈夫な素材。首元まですっぽりと覆った、前面だけ透明な頭部。これは。
美希はかつて、エージェントとして派遣された汚染地域で似たようなものを見ていた。
「…なんで防護服なんですか?」
「ぼ、防護服やて!?」
美希の言葉を受けて、表情を大きく崩す春水。
部屋の清掃は、すでに危険な任務へと姿を変えていた。
「これから二人が行く里保ちゃんの部屋は一言で言うと…魔境。それがないときっと命に関わる大惨事になるわ」
意味がわからなかった。
春水の大阪魂がなんでやねん!と聖の頭を引っ叩きたい衝動に駆られる。
いやいやいや、たかが掃除で死ぬとか大げさやろと。
「わかったら、早速防護服を着てね」
「は、はい…」
何となく断れない雰囲気に呑み込まれつつ、その大げさな防護服に身を通す二人。
すると、ある特徴に気付く。
「譜久村さん…」
「どうしたの、野中ちゃん」
「あのー、この防護服…半袖なんですが」
美希の言うとおり、全身を覆うはずの防護服の肘から先の部分は美希の素肌が露出していた。
「そんなんまだええやん。うちなんて半ズボンやで」
春水に至っては。
膝の部分から伸びる白いほっそりとした足。
これでは防護の意味がないのではないか。
「その理由は追って説明するわ。とにかく、時間がないの。急ぐわよ」
何なんだ、一体。
防護服のデザインがおかしいことはさておき、防護服自体の理由は、すぐに理解することとなる。
聖と防護服の二人は、今や誰も登らなくなった喫茶店の階段を、2階へと上がっていくのだった。
更新日時:2016/05/29(日) 08:55:38