(124)213『リゾナンター爻(シャオ) 』90話

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さゆみの送別会は、盛大に行われた。 
現役のリゾナンターたちだけではなく、多忙なスケジュールを縫って愛と里沙、
近日中に「何でも屋」の技術のさらなる発展のために渡米すると言う愛佳も参加、それに療養中のれいなも少しの時間だけならということで特別に「下界」に降りて来ていた。 

ここに、里保たち新たなリゾナンターたちが加わった当時の先輩五人の顔が揃う。 
楽しい宴の、はじまりだ。 

喫茶リゾナントの厨房を使った、焼きそばや焼き肉といった料理の数々。 
衣梨奈が持ち込んだ総菜や遥の母が作ったという手作りローストビーフがテーブルを彩り。 
さらに、さゆみが持ち込んだたこ焼き器による、一大たこ焼きパーティー。 
香音が持ち込んだアイドルのDVDのせいもあり、皆が食べ、歌い、そして踊る。 

そんな中、さゆみからのサプライズが。 
新しく聖をリーダーとした新体制で再出発することになったリゾナンター。 
春菜以外にもう一人、サブリーダーを任命すると言う。 
その人物とは… 

「…えりが、サブリーダー!?」 
「そう。フクちゃんもはるなんも真面目すぎるところがあるから、生田の感じがちょうどいいかもしれないってね」 

リゾナンターの第二サブリーダーとして指名されたのは、衣梨奈。 
はじめは目を丸くしていた衣梨奈だったのか、里沙の「生田ぁ、しっかりやんなさいよ」というからかいとも激励とも取れる言葉に段々と実感が湧いてくる様子。
反対に、なぜかざわざわしてるのは他の若きリゾナンターたちだ。 
まさかの展開というのが半分で、生暖かい目で見守るかというのがもう半分。 
特に里保などは、複雑な表情の半笑い状態であった。 
だが、エーイングこそが、衣梨奈の力の源。 

「みなさん!これが現実です!!えりがサブリーダーになったからには、想像以上のリゾナンターにしてくけんね!!」 

実に衣梨奈らしい所信表明。 
想像以上のリゾナンター、が何を意味するのかは彼女にしかわからないことではあるが。
新しいリゾナンターを聖が、春菜が、そして衣梨奈が率いてゆくことにメンバーの異論はなかった。 

時は夕方を過ぎ、夜になろうとしていた。 
宴もたけなわ、と言った感じのテーブルの上にはまだまだ御馳走が残っている。 
たこ焼き用の溶いた小麦粉も全てを使い切ってはいなかった。 

「どうしよう。このままじゃ勿体ないね」 
「でもけっこう食べましたよ…」 
「え? かの全然足りてないよ」 
「そうだ、惣菜とか焼き肉とかまだ余ってるけど」 
「たこ焼きの中に入れちゃえばいいんじゃね?」 
「じゃあまさがやるー!!」 

勢いよく飛び出てきたのは、優樹。 
やっほーたーい!という掛け声とともに、能力が発動する。 
瞬間移動能力でたこ焼きの中に具材を入れるという暴挙だった。
「こら佐藤!そんなんで能力使うのやめり!!」 

れいなの叱責も何のその、たこ焼き器に降り注ぐありとあらゆる食材。 
しかし、降り注いだのは食材だけでは無かった。 

「あれ、これってまさか」 
「お酒!?」 
「え?ウイスキーですか?」 

キッチンの奥にしまっていた、ウイスキーの瓶。 
その中身が、あろうことかメンバーたちの頭上に転位し、降りかかってきたのだ。 
これが、とんでもない事態を引き起こす。 

「あれぇ?にーがきさんがいっぱいおる…えへへぇ…」 
「はぁ?生田何酔っぱらってんのよ!」 
「う…ううっ、み、みついさぁん~かのを置いてくんですかぁ~」 
「いきなり泣き出しよった!鈴木あんた泣き上戸やったんか!!」 
「みずき…そんなんじゃないもん」 
「フクちゃんいきなり脱ぎだすのはやめり!!」 

次々とアルコールの餌食に陥ってゆくメンバーたち。 
さらに壊れたように笑い始める遥、寝てしまう春菜、なぜかフランスフランスと呟き続ける亜佑美。 

「ひとまず酔っぱらった子は寝かせるやよ!」 
「せや、さ、鞘師は?」 

愛佳が辺りを見回すと、そこには仏頂面で必死に酔いと戦っている里保がいた。 
不測の事態に備えるため、酒を飲んでも飲まれないようにするのも水軍流の神髄。
だが、まだ子供の里保には早かったようで、意識を保っているのが精いっぱいだ。
「ふう…佐藤がウイスキーを転送したのは未成年メンバーだけか…」 
「い、いや…うちら何か大きなことを見落としてませんか」 
「こんな時、確か一番酔わせちゃいけない存在がいたような」 
「あ、ああっ!!」 

れいなが、見てはいけないものを見てしまったような顔と表情。 
忘れかけていたトラウマが、れいなだけではなくオリジナルリゾナンター全員に蘇る。 
そう、あいつの名前は。 

「フッフフフ…かわいい子猫ちゃんがいっぱいなの…」 
「ぴ、ぴ、ピンクの悪魔!!!!!!!!!!!!!!!」 

そう。 
かつてこのリゾナントの地に降臨し、リゾナンターたちを次々とピンクの嵐に巻き込んだ破壊の女神。 
その忌まわしき存在が、再びこの地上に降り立ったのだ。 
リーダーだから、と今まで抑圧されてきた反動か、覚醒したさゆみは目にも止まらない動きで獲物たちに急接近した。 

まず餌食になったのは旧リーダー高橋愛。 
瞬間移動と精神感応の力を失ったとは言え、数々の修羅場を潜り抜けたはずの戦士の唇はあっと言う間に欲望の権化に奪われた。仮想りほりほとして日々さくらんぼと格闘していたさゆみの舌技が今、爆発する。 

「ああぁっふっふぅ!!!!」 
「愛ちゃん!!!!」 

全ての気を奪われ倒れた愛を目の前にして、恐れおののく後輩メンバーたち。 
中には、酔いとさゆみの全身から発せられた瘴気に当てられ気絶するものまで出てくる始末だ。 
舌なめずりしつつ次の標的をターゲッティングするピンクの悪魔、その視線が、すっかり怯えきった生き残りのメンバーたちに容赦なく注がれる。
獲物を狙う肉食獣の目と不幸にも合ってしまった人物。 
それはフレンチキスと聞くだけで何か高級なものを思い浮かべてしまう石田亜佑美だった。 

「ひいっ!カムオンリオ…」 

咄嗟に自らを守るべく幻想の獣を呼び出そうとする亜佑美だが、真の獣のスピードには間に合わず。 
懐に潜り込まれ、抱き上げられ、その指がピアノの鍵盤の上を滑るように亜佑美の平坦な体を攻略する。 

「ああぁっふっふぅ!!」 

本日二回目のああぁっふっふぅが木霊する頃には、立っているメンバーはれいな・里沙・愛佳と里保のみ。 

「これは大変なことになったのだ」 
「ガキさん落ち着いてる場合じゃなかとよ!」 
「そうです!このままやったらうちら全滅…」 

メインディッシュの里保の前に、前菜として籐の立った三人を喰ってやろう。 
とでも言いたげに、徐々ににじり寄ってゆくさゆみ。 
しかし。奇跡はその時起こった。 

「いひひひ、やっほーたい!!」 

自らも酔ってしまった優樹が、あさっての方向に転移の能力を放つ。 
そして、それまで鼻息荒く体を震わせていたピンクの悪魔の動きが止まる。
「え…あ…えええーっ!!!!!!」 

何と、優樹は。 
器用なことに里保の衣服だけを空の彼方へと転送させたのだった。 
つまり、さゆみの目の前には強制「パァーッ!!」された里保のあられもない姿が。 
それまで何とか気力で立っていた里保は突如の辱めに、ゆっくりと崩れ落ちた。 

「あ、あ、ああああぁっふっふぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!」 

店内に響き渡る、悪魔の雄叫び。 
風が吹き荒れ、雲を突き抜けるが如く、ピンクの悪魔の纏っていた瘴気がリゾナントの屋根を貫く。 
この日、喫茶店の周辺では、天まで届く勢いの桃色の光柱が目撃されることとなった。 

「お…終わったと…?」 
「ええ、そのようですわ…」 

悪魔は滅びた。 
床には、「さやしの…りほりほが…」と謎のうわ言を繰り返しながら
恍惚の表情を浮かべたさゆみが転がっているだけであった。 

「さて、後片付けをしないとね」 

面倒そうに特製グローブを嵌め、ピアノ線をほどき出しはじめる里沙。 
こうして、狂乱の宴は幕を閉じたのだった。
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「はぁ。あいつら、食うだけ食って後片付けもせんと」 
「しょうがないですよ田中さん。あんなことがあった後やったら」 

店内の後片付けがひと段落。 
れいなと愛佳は、先に窓側のテーブルに座り休憩中。 
死屍累々だった後輩メンバーたちは、皆二階の部屋で寝かされていた。 

「はい、みんなお疲れ様」 

言いながら、里沙がキッチンからコーヒーカップを3つ、トレイに入れてやって来る。 

「新垣さんの淹れたコーヒー、久しぶりやな」 
「ふっふふ、元2代目マスターの腕は鈍ってないよ?」 

そんなところへ、先ほどの惨劇から立ち直った愛が二階から降りてきた。 

「おはよ、愛ちゃん」 
「久しぶりにひどい目にあったやざ」 

まるで夏の終わりの蚊のようにふらふらとこちらへ近づき、どっかと里沙の隣に座る。 

「あ、里沙ちゃんコーヒー淹れたんや。あーしにもちょうだい」 
「誰か」 
「甘えないの。愛ちゃん自分で淹れれるでしょーが」 
「ねえねえ誰か」 
「二杯目はうちも愛ちゃんが淹れたやつがええです。リゾナントオリジナル」 
「誰か、ねえねえだれか」 
「懐かしいっちゃね。昔はれいなも愛ちゃんの淹れたコーヒーをテーブルに」
里沙のピアノ線によって厳重に縛られたその人物、ついに堪らず大声を上げる。 

「そろそろさゆみを解放してなの!!もう十分反省したからぁ!!!!」 

後ろ手に縛られた元ピンクの悪魔で今はか弱き子兎は、涙ながらにそう訴えた。 

「だーめ。きちんとお酒が抜けてからでないと、また変態になるでしょ」 
「そうそう。れいなたち油断させといて、二階の子たちの寝込み襲うけんね」 
「うちも佐藤に『みにしげさんにぱんつ盗られたんです』って訴えられましたもん」 
「そういうこと。もう少しそこで反省するやよ」 
「ううう…」 

が、返って来た言葉はけんもほろろ。 
魔王に攫われた囚われの姫の如く、とは言っても先ほどまではさゆみが魔王だったのだが、おとなしくしているしかないさゆみであった。 

「それにしても…」 
「久しぶりの五人、か」 

この場にいる五人。 
それはつまり、聖夜に「銀翼の天使」の襲撃を受け、散り散りになってしまったリゾナンターの、辛うじて残った五人。 

「あの時は、もうこの五人だけでダークネスとやり合わんといけん、と思ってた」 
「まさかうちらに後輩たちが…リゾナントの意志を継ぐ子たちが現れるなんて。夢にも思わなかった」
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打ちひしがれ、途絶えそうになった共鳴は。 
新たにリゾナントのドアベルを鳴らした四人の少女たちによって繋ぎ止められる。 
それぞれの事情によって一人、また一人とリゾナントを離れてゆく中で、繋がれた共鳴は少しずつ形を変え、新たなメンバーたちを加え、やがて大きな流れを作ってゆく。 

「あいつらも、立派になって…」 
「あーしたちが作ったリゾナンター…かたちは違うのかもしれないけど、それでもあの時みたいな、ううん、あの時とはまた違った輝きがある」 

新生リゾナンターとして、先輩の後をついてゆくだけのか弱い存在だった彼女たちは。 
今では立派に新たな後輩たちを引っ張っている。今回の敵だって、決して生易しい相手ではなかったはず。だけど、彼女たちは愛や里沙に約束した通り、生きて還って来た。これほど頼もしい存在は、ない。 

「…さゆみが抜けたら、あの時リゾナンターだった人間は誰ひとりいなくなってしまう」 

愛。里沙。絵里。さゆみ。れいな。小春。愛佳。ジュンジュン。リンリン。 
原点の9人、とも言うべき彼女たちは闇の組織、とりわけダークネスにとって忌々しい存在であった。 
数々の激闘が繰り広げられ、困難が訪れる度に彼女たちは共に手を取り乗り越えて来た。 
それが、さゆみを最後に当時のメンバーが誰もいなくなってしまう。 
一つの時代の終わり。けど。 

「でもね。さゆみは全然心配してない。だって、ずっと見てきたから。あの子たちが悩んで、苦しみながらもさゆみたちがしてきたように、あの子たちも共に手を取りあって困難を乗り越えてきたのを、見てたから」 
「さゆ…」 

愛たちは、さゆみの中に光を見た。 
それは、消えゆく光ではあったが、同時に力強くもあった。 
すなわち、後輩たちを見送り、自らは退くという決意。

「愛ちゃんが抜けて、ガキさんが抜けて。愛佳が、れいなが抜けた時も大丈夫だった。これからはフクちゃんが、はるなんが、生田が。新しいリゾナンターをかたち作ってゆく」 

後輩たちのことを思ってか、優しげな表情になるさゆみ。 
そこへ、れいなが。 

「さゆ」 
「何?」 
「さっきからカッコつけて言ってるっちゃけど、縛られながらの台詞やと、ぜんぜん締まらんとよ」 
「なっ!だ、だったら早くこれ、解いてよぉ!!」 
「それはだーめ」 

久々に喫茶リゾナントに集った五人。 
彼女たちは今まさに、肌で感じていた。 
新しきリゾナンターの、新しき時代の到来を。 

夜が、白む。 
やがて朝の光が、世界を包んでゆく。

更新日時:2016/06/30(木) 11:25:58.93 





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