(124)376『ズッキの決意(仮)タイトル募集中。。。』3

圧倒的能力差にたぐいまれなるカリスマ。 
そして命令ではなくお願い。 
鈴木は拒否権を与えられながらも、拒否するつもりはなくなってしまっていた。 

「わかりました。けれど約束してください。 
リゾナントのみんなにつらい思いはさせないと」 
それは無理な話だ。さっき女性は言っていた。 
少しの被害はしょうがない。同じ道を歩むようになってもその前に必ず障害はある。 
「約束はできへん。けど努力はする」 
女性の返答に鈴木は満足した。 
うそではない。口約束なら簡単に出来る。 
けれど女性は努力すると答えた。 
それは積極的にはつらい思いをさせることはない、と同義だ。 
鈴木はそう思った。 

「その顔やと交渉成立やな。じゃ、お父さん見てき。 
ちょっとつらいかもしれんけどでも会ったほうがええ」 
そう言って女性は人差し指を鈴木に向かって振った。 
その瞬間鈴木の体はDr.マルシェの前に会った。

「鈴木香音ちゃん、こんにちは。 
こっちに来たってことは首領とのお話がうまくいったのかな? 
それはよかった」 
Dr.マルシェは特にうれしくもなさそうに声をかけた。 
「お父さんはこっちだよ。ついておいで」 
言いながら鈴木の反応や返事も待たず先を歩く。 

最初に飛ばされた部屋は手術室のような感じだった。 
その部屋の奥のほうに廊下があり、そこを歩いていくと頑丈そうな扉の前についた。 
Dr.マルシェが扉の横の機械を操作して開錠する。 
さらに少し歩いてまた扉・・・。 
計4つの扉の先には8畳ほどの空間が広がっていた。 

「会わせるとは言っても危険だからね、ここにいて」 
そう言ってDr.マルシェは一つ扉を引き返していった。 
そして壁が突然透明になりその向こうにDr.マルシェがいた。 
手前にはなにか操作するための機械があり、上にはモニターの下部分が見えていた。 
制御室のようなものだろう。 

「ごたいめーん」 
スピーカーを通して急にすっとんきょうな声が聞こえた。 
と、同時にDr.マルシェのいる部屋の隣側、ちょうど鈴木の体と対面する側の壁が透明になった。 
そこは鈴木のいる部屋と同じくらいの大きさだった。 
無機質な机やいすがあり、その反対側には小さなベッドがあった。 
そのベッドに腰かけていたのは、まぎれもなく鈴木の父親だった。

「お父さん!!!!」 
鈴木は壁にかけよった。 
透明になったとはいえ、壁があることはわかる。 
それでも近くに行きたかったし、もっと近くで父親を見たかった。 

「お父さん!!お父さん!!!!!!お父さん!!!!!!!!!!!!!!!!」 
鈴木は叫び続けた。 
涙がいつの間にか頬を伝っていたけれど、かまわず叫んだ。 
「ちょっと待ってね~まだ音声はつないでいないんだ」 
スピーカーからまたのんびりした声が聞こえた。 
「お父さんはね、外部刺激があると能力をむやみやたらに使うんだ。 
ちょっと危険なレベルでね。だからお父さんから今君は見えていないし声も聞こえていない。 
危ないからね。 
理論上お父さんが能力をMax解放したらこの3部屋はもちろんさっき君が来た部屋まで吹き飛ばせちゃう。 
お父さんが潜在能力者だったことも踏まえるともっと出来るかもしれない。 
だから最初に顔を見せて落ち着いていたら声も聞かせる。 
暴れ始めたらシャットダウンだよ。わかった?」 
鈴木はうなずく。 

早く父親に自分を見てほしかった。 
無事だと伝えたかった。 

「ではあらためて、ごたいめーん」 
スピーカーからまたもやイメージそぐわない声が聞こえてきた。 
鈴木の側からはなんの変化も感じないが、父親側の壁は透明になったのだろう。 
1,2秒ほどして父親は鈴木を見る。 

「お父さん!!!」 
聞こえないのは分かっていたが鈴木は呼びかける。 
しかし、父親は鈴木を見るだけでこれといった反応は示さなかった。 

「ふーむ。名前を言うからもしかして、、って思ったけど違うのかなぁ。 
けどいつもよりは落ち着いてるか。関連性はあるのかな、、、」 
スピーカーからブツブツと言う声が聞こえる。 
「はーい、鈴木香音ちゃん。お父さんは落ち着いてるみたいだから声も通すね」 

そしてがさがさという音。 
父親の部屋と鈴木の部屋の音が繋がったのだ。 
「お父さん!!!」 
再度鈴木は呼びかける。 
「・・・・・・・・・・・」 
しかし父親は答えない。 
「お父さん!お父さん!!お父さん!!!!お父さん!!!!!!」 
何度呼びかけても父親は答えない。 

「お父さん、私大丈夫だったよ。元気だよ。学校も行ってるよ」 
涙にまみれて鈴木は言う。 
おそらく鈴木の声は父親には届かない。 
鈴木はそう思いながらも、父親に話しかける。 
その声は涙にぬれて絶叫のようでもあった。

バンッ 

重い音がした。 
机が鈴木の側の壁にぶつかった。 
父親が能力を使い、鈴木を攻撃しようとしている。 
しかし、その顔には何も感情が見られない。 

「おーーーっと。すごい、なにこの数値。反応してるってこと? 
今までにはなかったのに。 
――――― 
はーい。そこまで」 
Dr.マルシェの声が聞こえると同時に父親の部屋に煙が充満する。 
すぐに父親はベッドに倒れた。 
「お父さん!」 
鈴木は心配そうに父親を呼ぶ。 

「大丈夫、少し寝てもらっただけだよ。これ以上の数値上昇は危険だから」 
いつの間にかDr.マルシェがそばに来て、声をかけてきた。 
「お父さんはいったいどうなってるんですか?」 
鈴木は父親側の部屋を見ながら聞いた。 
「昨日言わなかったっけ?まだよくわかってないんだよ。 
君のお父さんは自分自身に『おそらく』能力をかけた。 
それは『おそらく』精神干渉のようなもので、他者に自分自身を乗っ取られることがないよう防衛した。 
そこに我々が違う能力つけちゃったから防衛がいささか強くなってしまった。 
まぁ、推察できるのはこんなとこかな」 
Dr.マルシェは白衣から少しだけ出ている両手を上に出し、おどけたポーズを取った。 
「まぁ、でも今日は少し面白いデータが取れたよ。 
君がいる限りこの実験は続けられるからゆくゆくはお父さんと話せるようになるといいね」 
Dr.マルシェはそう言ってめがねを取り微笑んだ。 


昨日はさんざんな言い様だったのに今日はおかしい。 
鈴木は少し違和感を感じた。 
しかし鈴木はそれ以上は考えなかった。 
考えられなかった。 
また睡魔が、強烈な睡魔がやってきたからだ。 
鈴木は崩れるように睡魔に身を委ねるしか出来なかった。

「・・・ちゃん。・・・んちゃん。・・・・かのんちゃん」 
自分を呼ぶ声がする・・・。 
鈴木はその声に答えようと睡魔を振り払う。 
「里保ちゃん・・?」 
鞘師がふくれっ面で机と同じ高さにかがんでいた。 
「もう香音ちゃん、寝すぎだよ~」 
そう言いながら頬を膨らませる。 
時計を確認すると学校が終わって10分というところだった。 
隣のクラスの鞘師が身支度を終えて来るまでに5、6分といったところだろうか。 
何か感づかれただろうか。 
鈴木は少し警戒したが、鞘師はそんな様子は見せない。 
出会ったばかりのころはクールで何事にもするどい鞘師だったが、 
最近はいい意味で気負いも抜けてぽんこつぶりがたまに出てきていた。 
「ごめん、里保ちゃん。昨日あんま眠れなくて」 
鈴木はそう答えながら立ち上がって帰る用意をする。 

さっきの出来事を自分自身で消化するまでは誰にも気づかれてはいけない。 
鈴木はそう思い、心に部屋を作ってカギを閉めた。 
共鳴しないように、共鳴して気付かれないように・・・。


更新日時:2016/07/06(水) 22:00:56.23

作者コメント
※ASAYANと共鳴は少し違います。(私の中で) 
ASAYANはオーディション番組→能力者が集う現象に名前を付けただけと思っていただくほうがよいかと思います。 
共鳴の惹かれあう部分を取って中澤さんは似たようなものと言いました。 
説明がなく混乱させてしまったらスミマセン。





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