(145)105 「約束した日」
「……」
「ねーるーしーかーないっ」
「……」
「何でそんな不機嫌そうな顔してるんですかぁ」
「音程ガッタガタすぎて」
「うっ…実は気付いてました」
「……いえ、野中は音痴じゃないんです」
「別に音痴とは言ってないよ?」
「すべてはチカラのせいなんです!」
「……ん?」
「この前、“空気調律(エア・コンディショニング)”の有効範囲を試そうと思って、物凄い勢いでチカラを発動させたんです」
「うん、ウソだったけどね?」
「もう凄かったんですよ、ホントに!電車も遅れちゃったし、それで音程もズレちゃったんですよ!」
「ちぇるし?」
「ハイ、ゴメンナサイ、音程わからなくナリマシタ…」
「でも、そうだね、確かにキミの有効範囲は気になるよ」
「そう、です?」
「そう言ってくださるのは、小田さんだけですよ」
「何でそこで自信なさそうなの?」
「だって…」
「キミは、あれだね、真面目だからこそ、臆病なんだね」
「臆病……」
「自分のチカラという可能性は試さずにいられなくて。でも、傷つくのも、傷つけられるのも怖くて」
「……」
「そんなこと……」
「大丈夫だよ」
「え?」
「大丈夫。もし、本当に、危なくなったら、止めるから」
私が必ず、キミを止めるから。
「………」
「約束するよ」
その微笑みに、私は何と返せば良かったのだろう。
きっと何処にも正解はなかったから、今もなお、その正解を探している。
もし、もし、この時、私が正解を見つけ出せていたら。
“あの悪夢”が起きることは、なかったのだろうか。
投稿日時:2017/04/08(土) 01:34:34.43
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