(148)68 「保全-約束の明日」
「……」
「……負けへんで。絶対に」
「……」
「いやー、うちカッコええなぁ」
「春水ちゃんばっかりズルい…」
「文句言わんの。ついこの前までは、野中っちょが主人公やったやん」
「“空間切断(エアー・カット)”のオッサンはともかく、“記憶の上書き”のオッサンには負けとらんやろ」
「負けたよ…小田さんを、助けられなかった」
「助けたやん」
「春水ちゃんたちが、助けたんだよ」
「なぁ、そうやってウジウジしても、うちは慰めんよ?」
「別に慰めてほしいわけじゃないし」
「……」
「野中っちょもわんこっぽいけど、そのわんこポジションは今や加賀ちゃんやもんねぇ」
「……」
「怒った?」
「別に」
「怒った」
「怒ると傷口に響くで?」
「もうすぐ退院だし」
「小田さんももうすぐやろ?仲良しやなぁ、ホンマに」
その瞬間、だった。
彼女の手が、胸ぐらをつかんだ。
彼女は挑発に乗りやすいタイプではないと思っていた。
激情に呑まれず、しっかりと戦況を見極められると信じていた。
自分の分析は間違っていないと思う。
ただ、彼女は出逢った頃よりも、感情が豊かになったのだ。
大切な仲間への想いが、強すぎる。
「ええ薬やろ?」
胸ぐらの手を解きながら、笑う。
彼女は下唇を噛み、真っ直ぐにこちらを見据える。
「アラリョージ…?」
彼女が言うと、何処かの映画の主人公のようで、思わず噴き出してしまう。
お見舞いのリンゴをテーブルに置き、踵を返した。
「じゃ、また喫茶リゾナントで」
そう手を振ったが、答えはなかった。
それこそが答えなのだろう。
面倒くさい同期を持つと苦労すると思いつつ、春水は一歩踏み出した。
投稿日時:2017/05/07(日) 21:09:40.66
作者コメント
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