(106)520『春水』3

樹の間から一斗缶が飛んで来て、真っ直ぐに傀儡師に向かって行った

「来た!」

傀儡師がタブレット端末を取り出した
レンズは一斗缶に向いている

ビデオカメラで撮影でもする気かいな

「こんのっ!」

バンッ!

変身女子(おっさんBモード)が傀儡師の前に立ち、一斗缶を両腕で受け止めた

「ナイスキャッチ。で、なんて書いてある缶だ?」
「えーっとね……〝キャノーラ油・A〟だって」
「だってさ」

傀儡師がタブレットに向かって話す

ビデオカメラやのうて、テレビ電話なんか?
相手は誰やねん

「とりあえず、コレ返す!」

変身女子(おっさんBモード)が、一斗缶を春水に投げて来た

「……止まれ!」

春水の合図と同時に、一斗缶が空中で静止し地面に落ちた

ホンマに止まった
春水の超能力って、脚から火が出るだけやないんか?

「念動力系統は間違いない無さそうだが」

タブレットを春水に向けつつ、考える仕草をする傀儡師

「もっと攻めてみる?」
「そうだな、頼んだ」
「オッケー!」

変身女子(おっさんBモード)が、春水に向かって来た

「コレ使ってやる!」

さっき地面に落ちた一斗缶を掴み、春水目掛けて振り下ろす変身女子(おっさんBモード)

アカン!
あんな重そうなモンが当たったら、春水の顔が崩れてしまう
崩れるのは変顔だけで充分や!

「燃えろ!」

脚に力を入れて、火が出る様に念じる
何も起こらない

今まで、望んで火が出た事はなかった
思わぬ時に火が出て、たまたまその場におった友達とかにバレて……

「……やっぱアカンか!」
「なんだよ、フェイントか?」
「ちゃうわ!」

一斗缶が迫る
慌てて後ろに下がる

ドォン!

勢い良く地面に叩きつけられた一斗缶は、容器が壊れて中身が辺りに溢れた

「うわっ! 掛かったぁ!」

変身女子(おっさんBモード)は、全身に油を浴びてテッカテカになった
頭は元から光っとったんやけど
ってか

「あんた、アホやろ」
「うっさい!」

変身女子(おっさんBモード・テッカテカVer.)が右パンチを繰り出す

一瞬で春水の懐に来た変身女子(略)

突っ込んでる場合やなかった
速すぎて避けられん!

──シ+念=カナ ──〓〓〓キネシス

「なんだ!?」

変身女子(略)は脚を滑らせながら地面に倒れた

「イテテテ……今のは?」
「大丈夫か、何があった?」

傀儡師が近づいて来た
手にはやっぱりタブレットを持ってる

「今、足元の油が動いたみたい……」
「油が……? どう思う?」

タブレットに話し掛けた傀儡師
すると、タブレットから女の人の声がした

『候補に出したでしょ。その子の能力はパイロキネシスじゃない。保有能力は〝オイルキネシス〟よ』
「オイルキネシス……油限定の念動力か」

春水の能力は、油を動かすって事なんか?
自分でも分からん超能力の事が、なんでこの人らが分かるん?
だって

「脚から火が出たんはどう説明すんねん!」

脚から火が出るなんて、怖すぎるやろ
そのせいで周りのみんなは離れてった
春水が一番に嫌なのは、火が出る事や
油を動かすだけだとか、納得出来んわ!

「確かに、そうだな」

傀儡師が、タブレットから春水に視線を移した

「ここまで付き合ってくれたお礼だ。あたしらの結論を教えてあげるよ」
「親切やな」
「礼はいらないよ。ま、言う気もないだろうけど」
「良いから、はよ言わんかい!」

──油念動力──オイルキネシス

地面に流れていた油が、傀儡師に向かって行く

「自分の能力を理解すると、能力の精度も上がる。若い子は成長が早くて良いね」
「そんな余裕でええんか!?」
「……ああ」

──精神干渉──マインド・コントロール

「なんや……?」

急に力が、抜け

「あたしの能力さ。もう少し、協力してもらうよ」

戦う気がなくなっていく
身体から力が抜けて、動きが止まる
春水に倣う様に、傀儡師へ向かっていた油も動きを止めた

「良い子だ。早速だが、手首にある物を外してくれ」


投稿日時:2015/07/23(木) 23:10:33.36



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